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エリア内でお客さまごとに安定した通信を継続して提供可能なユーザーセントリックRANの屋外実証に成功

~Beyond 5G/6G時代に向け、デジタルツインで多様化する通信ニーズに応えるために~

2023年5月23日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、2023年2月21日から5月12日の間、同本社の敷地内にユーザーセントリックRANを用いたセルフリー方式によるエリアを構築し、基地局から複数のスマートフォン方向へのデータ通信の実証実験(以下「本実証」)に成功しました。本実証では、お客さまが持つことを想定したスマートフォンがエリア内のどの場所に移動しても、セルラー方式と比べて、基地局の連携に最低限必要な組み合わせを選択しつつ、通信速度を確保し続けることで、エリア内においてお客さまに安定した通信を継続的に提供できることを確認しました。
KDDI総合研究所は、デジタルツインで多様化する、お客さま一人ひとりが必要とする通信サービスを、お客さまを中心に複数の基地局が連携して提供することで、さまざまな環境で安定して享受できるユーザーセントリックRANの研究開発を進めています。ユーザーセントリックRANのコンセプトを反映したエリアを屋外に構築し、スマートフォンを使った実証ができたことは、Beyond 5G/6Gでの移動体ネットワークの実現に向けての前進となります。
なお本件を、2023年5月24日~26日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される「ワイヤレスジャパン 2023×ワイヤレス・テクノロジー・パーク 2023」のKDDI総合研究所ブースで紹介します。

 

 

 

図1:ユーザーセントリックRANの屋外実証

 

 

【背景】
Beyond 5G/6Gの商用化が想定される2030年代に、デジタルツインを活用するためには、現実世界と仮想世界を結ぶために切れ間なくデータのやりとりをすることが求められます。このためには、いつでもどこでも、お客さまが安定した通信が継続できる環境がより重要になります。
しかし、従来の基地局を中心にエリア構築を行うセルラー方式では、基地局間の干渉で、セル境界での通信速度の劣化が発生することが課題となっています。この課題を解決するため、セルフリー方式が注目されています。セルフリー方式では、分散配置された多数の基地局アンテナを連携させるCell-Free massive MIMO技術により干渉を抑制し、エリア内での通信速度の劣化をなくします。さらに、ユーザーセントリックRANを用いたセルフリー方式では、「AP Cluster化技術」(関連する成果3)により、無線信号処理の計算量を低減しながらお客さまごとの通信速度を確保し続けることが可能なように、最低限の基地局を選択して連携させます(図2)。

 

 

 

図2:ユーザーセントリックRANを用いたセルフリー方式の概念図

 

 

【今回の成果】
このたび、KDDI総合研究所は、ユーザーセントリックRANを用いたセルフリー方式を用いて屋外にエリアを構築し、基地局から複数のスマートフォン方向のデータ通信の実証実験を行い、セルラー方式と比べて、エリア内の通信速度が確保し続けられていることを確認しました。実証実験では、これまでの成果であるAP Cluster化技術を適用し、スマートフォンごとの通信速度が確保されるように、連携させる基地局の最低限の組み合わせを選択させました。

 

■ 本実証の概要
・実施時期:2023年2月21日から5月12日
・実施内容:
 -KDDI総合研究所本社敷地内、約500m2の屋外環境に、中心周波数4.7GHzの基地局とアンテナ8本を分散配置(図3)
 -セルラー方式とユーザーセントリックRANによるセルフリー方式でエリアを構築。
  両方式において、スマートフォン4台同時のデータ通信を実施。
  うち1台のスマートフォンを移動させ、通信速度を計測(図4)
 -AP Cluster化技術を動作させ、移動するスマートフォンに対して、通信速度の確保に必要な最低限の基地局の選択を実施

 

 

 

図3:実証内容

 

 

 

図4:実証結果

 

 

図4から、セルラー方式では、主に中央付近の通信速度が低下していることが確認できます。これは、中央付近では、上下左右に配置された基地局アンテナからの電波の干渉を受けやすいことが原因です。一方、ユーザーセントリックRANによるセルフリー方式では、該当エリアの通信速度が、セルラー方式に比べて、高い速度で確保されていることが確認できます。これは、無線信号処理で干渉を抑えるとともに、「AP Cluster化技術」による通信速度を確保するために最低限必要な基地局の選択で、個々のスマートフォンに安定した通信を提供できているためです。

 

【今後の展望】
スマートフォンから基地局方向のデータ通信の実証、「CPU間連携技術」(関連する成果1、2)や「光ファイバー無線技術」(関連する成果5)といった要素技術と組み合わせた実証を進めていきます。また、ユーザー数や基地局数をさらに増やした場合でも、エリア内での通信速度の確保を実現する処理負荷が少ない制御技術を検討していきます。これらにより、ユーザーセントリックRANの大規模な展開に向けた研究開発を進めていきます。
なお、本研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、エヌアイシーティー)の委託研究(00401)により得られたものです。

 

 

【関連する成果】
1.モバイル通信分野の著名な国際会議VTC2022-Fallにて採録論文がBest Paper Awardを受賞(2022年10月7日発表)

 

2.Beyond 5G/6G時代に向けた通信速度を維持し続けるCPU間連携技術の実証実験に成功(2022年5月23日発表)

 

3.世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応える無線通信環境の提供と基地局の消費電力低減を両立する実証実験に成功(2022年1月31日発表)

 

4.世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功(2021年10月7日発表)

 

5.世界初 大容量化・エリア構築性に優れたモバイルネットワーク向け光ファイバー無線の伝送実験に成功(2020年12月7日発表)

 

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

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