- 先端技術研究所
Beyond 5G/6G時代に向けた通信速度を維持し続けるCPU間連携技術の実証実験に成功
~ユーザーセントリックアーキテクチャーの実現に前進~
2022年5月23日
株式会社KDDI総合研究所
株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、「Cell-Free massive MIMO技術」(注1)において、局舎に分散配置された基地局の無線信号処理機能(CPU)を連携させ、干渉抑制効果と無線信号処理の計算量の削減を両立する「CPU間連携技術」を考案し、2022年5月6日に、エンド・ツー・エンド(以下「E2E」)通信の実証実験に世界に先駆けて成功しました。これにより、Cell-Free massive MIMO技術の大規模展開においても通信速度の維持と消費電力低減との両立が可能となり、Beyond 5G/6G時代に期待されるユーザーセントリックアーキテクチャー(注2)の実現に向け、前進します。
なお本件は、2022年5月25日~27日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2022」のKDDI総合研究所ブースで紹介します。
図1:CPU間連携技術の動作イメージ
【背景】
5G商用化以降、5Gの高速性・低遅延性を活かした多種多様なサービスが提供されましたが、研究開発分野では5Gの特徴をさらに高度化させた次の通信システムBeyond 5G/6Gへの取り組みが始まっています。
5Gまでの通信システムでは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャー」が採用されており、お客さまの利用場所や時間によっては、隣接する基地局との間で生じる干渉の影響により、必ずしも最適な通信品質を提供できないケースがあります。KDDI総合研究所は、このような問題を解決するため、多数の基地局アンテナを分散配置し、これらのアンテナを連携させることで、干渉を抑えることができるCell-Free massive MIMO技術、およびその実用化に向けた制御技術の研究開発を進めています(下部、【関連する成果】参照)。
Cell-Free massive MIMO技術では、同じ局舎にある無線信号処理機能に接続する基地局(以下「AP」)を連携させることで干渉抑制が可能です。しかし、auサービスエリアのような大規模な通信環境では、無線信号処理機能を複数の局舎に分散して配置する必要があります。局舎が異なる無線信号処理機能に接続するAP間では連携ができずに干渉が発生し、高い無線品質を維持できず通信速度が低下する問題がありました。
【今回の成果】
このたび、KDDI総合研究所は、干渉抑制効果と無線信号処理の計算量の削減を両立するCPU間連携技術を考案し、サーバーと端末でIPレベルのE2E通信を行う実証実験に世界に先駆けて成功しました。
局舎間の干渉を抑制する既存の無線信号処理機能間の連携技術として、APと端末間の伝搬状態を推定して干渉抑制を行うCoordinated Beamforming技術(注3)が5Gで利用されています。しかし、Cell-Free massive MIMO技術にCoordinated Beamforming技術を適用すると、分散配置された全てのAPと端末間で、無線信号処理機能において伝搬状態の推定と干渉抑制の計算を行う必要があります。これには大量の無線信号処理の計算が必要になるため、サーバーの計算量が増大することが課題でした。
そこで、ユーザー端末の移動などにより変化するAPと端末の無線状態の測定を行い、干渉抑制の効果が大きいAPからの無線信号のみを選択するような制御を加えることで、干渉抑制効果と信号処理の計算量の削減を両立するCPU間連携技術を新たに考案しました(図2)。
図2:既存技術と考案したCPU間連携技術の比較
今回の実証実験は、以下の無線通信環境で行いました(図3)。
・2つの局舎に設置したサーバーに、それぞれ2つのAPおよび1つの端末を接続
・同一サーバーに接続する2つのAPで無線信号処理を一括して行い、端末に対してデータ通信を行う
この環境において、1つの端末をもう1つの端末に近づけて徐々に干渉が発生する状況を作り、CPU間連携技術の有無での通信速度の評価を行いました(図4)。評価の結果、CPU間連携技術を用いない場合は干渉で通信速度が低下しますが、用いた場合は強い干渉を与えるAPを選択して干渉を抑制することで、速い通信を維持できることを確認しました(図5)。また、大規模展開を想定した計算機シミュレーションの結果、既存のCoordinated Beamforming技術と比較して、CPU間連携技術では無線信号処理の計算量を1/4に削減できることが確認されました(注4)。 計算量の削減により必要なサーバー台数も削減できるため、無線信号処理に関わる消費電力低減への貢献が期待されます。
図3:実証環境
図4:実証環境での端末#a3への干渉発生状況
図5:実証結果(スループット)
【今後の展望】
KDDI総合研究所は、お客さま一人ひとりが、必要とする通信サービスをさまざまな環境で安定して享受できる「ユーザーセントリックアーキテクチャー」の実現に取り組んでいます。
今後、CPU間連携技術と「AP Cluster化技術」(注5)を組み合わせた制御方式の検討を進め、時々刻々と変化するお客さまの無線環境に応じて、高い通信速度を保ちつつ、より少ないAP数での無線信号処理による消費電力の低減を目指します。
また、多数の基地局を少ない光ファイバーで効率よく収容可能な光伝送技術「光ファイバー無線技術」と組み合わせるなど光と無線の融合を進め、APの低コスト・低環境負荷かつ迅速な展開が可能となる技術の研究開発を推進します。
なお、今回の研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT:エヌアイシーティー)の委託研究(採択番号00401)により得られたものです。
【関連する成果】
世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応える無線通信環境の提供と基地局の消費電力低減を両立する実証実験に成功(2022年1月31日報道発表)
世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功(2021年10月7日報道発表)
世界初 大容量化・エリア構築性に優れたモバイルネットワーク向け光ファイバー無線の伝送実験に成功(2020年12月7日報道発表)
<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。
(注1)複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術。
(注2)KDDIが提唱する次世代ネットワークアーキテクチャー。B5G/6G時代に多様化する通信ニーズに対して、最適な通信環境を提供するために、それぞれのユーザーに特定の基地局がサービスを提供するのではなく、複数の基地局が連携してサービスを提供する。次の文献にて発表済み。
・KDDI Beyond 5G/6G ホワイトペーパー(2021年3月初版公開、2021年10月第2版公開)
・K. Yamazaki, T. Ohseki, Y. Amano, H. Shinbo, T. Murakami, and Y. Kishi, “Proposal for a user-centric RAN architecture towards beyond 5G,” 2021 ITU Kaleidoscope Academic Conference, pp. 1–7, Dec. 2021.
(注3)セル間で協調したBeamformingを行うことでセル間干渉を抑制する技術
M. K. Karakayali, G. J. Foschini and R. A. Valenzuela, "Network coordination for spectrally efficient communications in cellular systems," in IEEE Wireless Communications, vol. 13, no. 4, pp. 56-61, Aug. 2006.
(注4)AP数400、局舎数9、端末数100を1km四方にランダム配置して、それぞれ10回の計算機シミュレーションを実施し、端末のスループットと無線信号処理機能の計算量を算出した。
(注5)お客さまごとに連携させる基地局を選択して通信を行う制御技術の一つ。AP Clusterとは、APの集合体で、Cell-Free Massive MIMOにおいて、干渉低減などを含めた無線信号処理を行う範囲となる。
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