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世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応える無線通信環境の提供と基地局の消費電力低減を両立する実証実験に成功

~Beyond 5G/6G時代に向けて。AP Cluster化技術を用いることで実用化に前進~

2022年1月31日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、2022年1月11日に、「Cell-Free massive MIMO」(注1)において、お客さまごとに連携させる基地局を選択して通信を行う「AP Cluster(エーピークラスター)化技術」を適用した、エンド・ツー・エンド(以下「E2E」)通信の実証実験に成功しました。これにより、多数の基地局アンテナを分散配置しながらも無線信号処理の計算量を低減し、お客さま一人ひとりの通信品質要求に応える無線通信環境の提供と、基地局の消費電力低減の両立が可能であることを世界で初めて(注2)明らかにしました。

 

 

 

図1:AP Cluster化技術を適用したネットワーク構成

 

 

【背景】
2020年3月の5G商用化開始以降、5Gの高速性・低遅延性を活かした多種多様なサービスが提供されましたが、研究開発分野では5Gの特徴をさらに高度化させた次の通信システムBeyond 5Gへの取り組みが始まっています。
5Gまでの通信システムでは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャー」が採用されており、お客さまの利用場所や時間によっては、隣接する基地局との間で生じる干渉の影響により、必ずしも最適な通信品質を提供できないケースがあります。
KDDI総合研究所は、このような問題を解決するため、多数の基地局アンテナを分散配置し、これらのアンテナを連携させることで、個々のお客さまに対する干渉による影響を抑えることができるCell-Free massive MIMO技術の研究開発を進めてきました(図2)。Cell-Free massive MIMO技術は一方で、隣接する基地局アンテナとの干渉を抑止するために無線信号処理の計算量が膨大となることが課題でした。

 

 

 

図2:セルラーアーキテクチャーとCell-Free massive MIMOの違い

 

 

【今回の成果】
この度、KDDI総合研究所は、Cell-Free massive MIMOにAP Cluster化技術を適用して、サーバーと端末でIPレベルのE2E通信を行う実証実験(以下「本実証」)に世界で初めて成功しました。
本実証では、無線信号処理を行うサーバーに分散配置した4つの基地局アンテナを接続し、それぞれの基地局アンテナで送受信される無線信号をサーバーで一括処理を行うことで、端末に対して基地局アンテナ間で連携してデータ通信を行う無線通信環境(Cell-Free massive MIMO環境)を構築しました(図3)。この環境において、端末ごとにその位置に応じて連携する3つの基地局アンテナ群(AP Cluster)(注3)を選択して評価を行いました(図4)。評価の結果、選択したAP Cluster内の基地局アンテナだけと無線信号の送受信を行うAP Cluster化技術を用いても、全ての4つの基地局アンテナを連携させた場合と同程度のスループットが得られることを確認しました(図5)。
これにより、AP Cluster化技術を適用してAP数を減少させたとしても、Cell-Free massive MIMOの特徴である通信品質が均質化された状態を維持したまま、高品質なE2E通信が行えることを明らかにしました。

 

 

 

図3:実証環境

 

 

 

図4:実証環境でのAP Cluster形成イメージ

 

 

 

図5:実証結果(スループット)

 

 

また、Cell-Free massive MIMOにAP Cluster化技術を適用することによって、端末ごとに連携する基地局アンテナの数が減るため、無線信号処理を行うサーバーの処理負荷を低減できます。KDDI総合研究所のシミュレーション(注4) によると、本実証の結果を1km四方のエリアに適用した場合、全ての基地局アンテナを利用する場合と比較して、サーバーにおける無線信号処理のための計算量が1/5に削減できることが分かりました。計算量の削減により必要なサーバー台数が減ることから、基地局の消費電力低減に貢献することが期待されます。

 

【今後の展望】
KDDI総合研究所は、お客さま一人ひとりが、必要とする通信サービスをさまざまな環境で安定して享受できる「ユーザーセントリックアーキテクチャー」(注5)の実現に取り組んでいます。
今回の成果は、ユーザーセントリックアーキテクチャーをauサービスエリアのような大規模な通信環境へ適用するにあたって課題となる、無線信号処理の計算量および消費電力の増加を解決する技術を、お客さまの実利用を想定した環境において実証したものです。この成果を元に、今後、AP Clusterを形成するより高度な方式を検討し、さらなる計算量および消費電力の低減に取り組みます。
また、本実証結果を、多数の基地局を少ない光ファイバーで効率よく収容可能な光伝送技術「光ファイバー無線技術」と組み合わせるなど光と無線の融合を進め、基地局アンテナの低コスト・低環境負荷かつ迅速な展開が可能となる技術の研究開発を推進します。

 

なお、今回の研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構の委託研究(採択番号00401)により得られたものです。

 

【関連する成果】
世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功(2021年10月7日報道発表)

 

世界初 大容量化・エリア構築性に優れたモバイルネットワーク向け光ファイバー無線の伝送実験に成功(2020年12月7日報道発表)

 

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術。
(注2)2022年1月31日時点、KDDI総合研究所調べ。
(注3)APは、「Access Point(アクセスポイント)」の略で、基地局アンテナと同義。基地局において無線の送受信を行う機能を指す。AP Clusterは、APの集合体で、Cell-Free Massive MIMOにおいて、干渉低減などを含めた無線信号処理を行う範囲となる。
(注4)AP数400、端末数100を1km四方にランダム配置して、AP Cluster化技術の有無で、それぞれ20回の計算機シミュレーションを実施し、各端末が利用する平均AP数を算出した。この結果を用いて、計算量を比較したもの。
(注5)KDDIが提唱する次世代ネットワークアーキテクチャー。B5G/6G時代に多様化する通信ニーズに対して、最適な通信環境を提供するために、それぞれのユーザーに特定の基地局がサービスを提供するのではなく、複数の基地局が連携してサービスを提供する。次の文献にて発表済み。

KDDI Beyond 5G/6G ホワイトペーパー(2021年3 月初版公開、2021年10月第2版公開) 
・K. Yamazaki, T. Ohseki, Y. Amano, H. Shinbo, T. Murakami, and Y. Kishi, “Proposal for a user-centric RAN architecture towards beyond 5G,” 2021 ITU Kaleidoscope Academic Conference, pp. 1–7, Dec. 2021.

 

※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。