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世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功

~無線・光技術を連携させた新たな基地局展開手法の実現に向けて~

2021年10月7日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、2021年9月、お客さま一人ひとりに最適な無線通信環境の提供を可能とする次世代無線ネットワーク展開技術の実証に成功しました。複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術「Cell-Free massive MIMO」と、多数の基地局を少ない光ファイバで効率よく収容可能な光伝送技術「光ファイバ無線技術」を組み合わせた実証の成功は世界初(注1)で、基地局アンテナの低コストかつ迅速な展開と、お客さま一人ひとりの通信品質要求に応える無線通信環境の提供の両立が可能になることを明らかにしました。

 

 

 

図1: 光ファイバ無線方式によるCell-Free Massive MIMOの展開イメージ

 

 

【背景】
2020年3月の5G商用化開始以降、5Gの高速性・低遅延性を活かした多種多様なサービスが提供されましたが、研究開発分野では5Gの特徴をさらに高度化させた次の通信システムBeyond 5Gへの取り組みが始まっています。
5Gまでの通信システムでは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャー」が採用されており、お客さまの利用場所や時間によっては、隣接する基地局との間で生じる干渉の影響により、必ずしも最適な通信品質を提供できないケースがあります。また、5Gで利用するミリ波帯では超高速・大容量な通信サービスを提供できる一方で、建物や車、人等による遮蔽の影響で電波が届きにくくなるなどの問題もあります。
KDDI総合研究所は、このような問題を解決するため、多数の基地局アンテナを分散配置し、これらのアンテナを連携させることで、個々のお客さまに対する干渉や遮蔽による影響を抑えることができるCell-Free massive MIMO技術や、より少ないファイバ数で効率よく基地局アンテナを収容できるインフラ構成手法について研究開発を進めてきました。

 

【今回の成果】
この度、KDDI総合研究所は、Cell-Free massive MIMOのモバイルフロントホールに光ファイバ無線技術であるIFoF方式(注2)を適用し、基地局アンテナ間の連携効果を検証する実証実験に世界で初めて成功しました。今回の実証実験では、5G基地局シミュレータと分散配置した複数の基地局アンテナ間を1本のマルチコア光ファイバ(注3)で接続し、それぞれの基地局アンテナで送受信される無線信号をIFoF方式で伝送するモバイルフロントホールを介してミリ波帯(28GHz)の無線通信環境を構築しました。また、商用5G端末との通信試験を通じ、分散配置したアンテナの連携により以下の効果が得られることを確認しました。

 

(1)遮蔽の影響を緩和し、安定したスループットが得られること。
(2)分散アンテナの配置を変えた場合でも良好な無線品質が得られること。

 

今回適用したIFoF方式は、無線信号をデジタル化せずアナログ波形のまま伝送する方式であり、デジタル化に伴うモバイルフロントホール区間の大容量化の課題を解消することができるとともに、コア多重・波長多重・IF周波数多重と様々な粒度で複数のアンテナ向けの無線信号を1本の光ファイバに集約してアンテナ付近まで伝送することで所要光ファイバ数・光ファイバ長を大きく削減することが期待されています(注4)。また、アナログ波形伝送では無線信号処理を集約局側に集中することで基地局アンテナ処理を軽減できることから、多数のアンテナの分散設置が必要なCell-Free massive MIMOにおけるアンテナ側装置の省電力化に寄与することも期待されています。

 

【今後の展望】
KDDI総合研究所は、お客さまが最良の通信サービスを様々な環境で安定して享受できる、「ユーザセントリックアーキテクチャ」(注5)の実現に取り組んでいます。
「ユーザセントリックアーキテクチャ」では、多数のお客さまに対して、柔軟にその通信品質要求に応えていくために、これら多数のお客さまに同時にCell-Free massive MIMOの効果を適用する必要があり、高速・高レスポンスな無線信号処理技術やネットワーク制御技術と、低コストで効率的なネットワーク構築が重要となってきます。今回実証したIFoF方式によるフロントホール伝送技術とこれらの制御技術を融合させた技術検討など、無線と光の技術を連携・融合させた研究開発を推進していきます。

 

【関連する成果】
世界初 大容量化・エリア構築性に優れたモバイルネットワーク向け光ファイバ無線の伝送実験に成功(2020年12月7日報道発表)

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、経済発展と社会的課題の解決を両立する持続可能な生活者中心の社会「Society 5.0」の実現を加速する、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定しました。両社は、ネットワーク、プラットフォーム、ビジネスの3レイヤの環境整備を進めると共に、3つのレイヤを支える先端技術となる7つの分野のテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7分野のテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)「Cell-Free massive MIMO」と、多数の基地局を少ない光ファイバで効率よく収容可能な光伝送技術「光ファイバ無線技術」を組み合わせた実証の成功は世界初。(2021年10月7日時点、KDDI総合研究所調べ)
(注2)IFoF=Intermediate Frequency over Fiber。複数の無線信号を中間周波数帯(IF帯)で周波数多重し、アナログ光変調により1本の光ファイバ・1波長で一括してアンテナまで伝送する方式。比較的低い周波数領域で信号処理をするため、安価な光変調器・光デバイスで大容量の無線信号を配信できる。
(注3)1本の光ファイバに複数のコアを設けて異なる光信号を多重伝送可能な光ファイバ。
(注4)集約局~アンテナ間の距離を約10km、8箇所のアンテナを1本の光ファイバに集約する仮定で試算した場合、所要光ファイバ長を約1/5程度に削減可能。
(注5)KDDIが提唱する次世代ネットワークアーキテクチャ。B5G/6G時代に多様化する通信に対する要求に対して、最適な通信環境を提供するために、それぞれのユーザーに対して特定の基地局がサービスを提供するのではなく、複数の基地局が連携してサービスを提供する。

 

 

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