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1本の光ファイバーで576チャンネル分の無線信号を収容可能とする光ファイバー無線技術の実証実験に成功

~Beyond 5G/6Gに向け、少ない光ファイバー数で基地局の大規模展開を可能に~

2022年3月23日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、2021年10月、無線信号波形を光アナログ伝送する光ファイバー無線技術(注1)において、多重数を拡張することで1本の光ファイバーで伝送する無線信号の数を当社従来技術(注2)比で6倍とし、世界最大(注3)となる576チャンネル分(注4)・総容量1.3Tbps(テラビット毎秒)の伝送実験(以下「本実証」)に成功しました。
1本の光ファイバーで最大576拠点分の基地局アンテナを一括収容できることとなり、多数の基地局アンテナを分散配置することでお客さま一人ひとりに最適な通信環境の提供を目指すBeyond 5G/6G時代の無線ネットワークを、より少ない光ファイバー数で効率よく構築できることが期待されます。
また、KDDI総合研究所は、光通信分野に関する世界最大級の国際会議OFC2022(2022年3月6日~10日開催)(注5)で、今回の研究成果を発表しました。

 

 

 

図1:光ファイバー無線技術を用いた基地局アンテナの収容構成

 

 

【背景】
2020年3月の5G商用化開始以降、5Gの高速性・低遅延性を活かした多種多様なサービスが提供されましたが、研究開発分野では5Gの特徴をさらに高度化させた次の通信システムBeyond 5Gへの取り組みが始まっています。5Gまでの通信システムでは、基地局を中心にサービス提供可能なエリアが決まる「セルラーアーキテクチャー」が採用されており、お客さまの利用場所や時間によっては、隣接する基地局との間で生じる干渉の影響により、必ずしも最適な通信品質を提供できないケースがありました。
KDDI総合研究所は、このような問題を解決するために、多数の基地局アンテナを連携させることで、個々のお客さまに対する干渉や遮蔽による影響を最小限に抑えることができるCell-Free massive MIMO技術(注6)の研究開発を進めています。Cell-Free massive MIMO技術の実現には、分散配置された多数の基地局アンテナをより少ないファイバー数で効率的に収容できるモバイルフロントホール(注7)回線が必要であり、その伝送技術が求められていました。

 

【今回の成果】
今回、KDDI総合研究所は、マルチコアファイバー(注8)を用いた空間多重、光の波長多重、さらに複数無線信号の周波数多重を組み合わせ、多数の基地局アンテナに向けた無線信号を1本の光ファイバーで一括送信する、光ファイバー無線技術の伝送実験に成功しました。本実証では、長さ12.8kmの標準外径4コアマルチコアファイバーを伝送路に利用し、8波長多重された光アナログ変調信号を各コアで伝送しました。光アナログ変調信号には、5G無線システムのミリ波帯で用いられる帯域幅400MHzの無線信号18チャンネル分を周波数多重したIFoF信号(注9)を用い、合計で576チャンネル分(4コア×8波長×18チャンネル)、総容量1.3Tbpsに相当する無線信号を1本の光ファイバーで多重伝送できることを明らかにしました。これまで、5Gミリ波相当の無線信号を用いたIFoF信号多重伝送では、当社が2021年1月に実証した96チャンネルが最大でしたが、今回この多重数をさらに6倍に拡大したことになります。
光ファイバー無線技術によるモバイルフロントホールは、無線信号をデジタル化せずアナログ波形のまま伝送する方式であり、デジタル化に伴うモバイルフロントホール区間の容量増大の課題を解消することができる方式です。今回の成果により、Cell-Free massive MIMOの基地局アンテナを多数設置するにあたり必要な光ファイバー数を大幅に削減でき、Beyond 5Gに向けた無線ネットワークの構築を低コスト化できることが期待されます。また、光ファイバー無線では無線信号処理を集約局側に集中することで基地局アンテナ側の処理を軽減できることから、基地局アンテナ装置の省電力化への寄与も期待されます。

 

【今後の展望】
KDDI総合研究所は、お客さまが最良の通信サービスを様々な環境で安定して享受できる、「ユーザーセントリックアーキテクチャー」(注10)の実現に取り組んでいます。
「ユーザーセントリックアーキテクチャー」では、お客さま毎の通信品質要求に柔軟に応えていくために、多数のお客さまに対して同時にCell-Free massive MIMOの効果を適用する必要があり、高速・高レスポンスな無線信号処理技術やネットワーク制御技術、低コストで効率的なネットワーク構築技術などを連携させることが重要となってきます。今回実証した多拠点収容が可能な光ファイバー無線伝送によるモバイルフロントホール技術と、無線信号処理の計算量・消費電力を低減可能な「AP Cluster化技術(注11)」を組み合わせるなど、無線と光の技術を連携・融合させた研究開発を今後も推進していきます。

 

なお、今回の研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の委託研究「Beyond 5Gに向けたモバイル収容大容量光アクセスインフラの研究開発」および令和3年度Beyond 5G研究開発促進事業「Beyond 5G通信インフラを高効率に構成するメトロアクセス光技術」により得られたものです。

 

【関連する成果】
世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応える無線通信環境の提供と基地局の消費電力低減を両立する実証実験に成功(2022年1月31日報道発表)

 

世界初 お客さま一人ひとりのニーズに応えるBeyond 5Gに向けた無線ネットワーク展開技術の実証に成功(2021年10月7日報道発表)

 

世界初 大容量化・エリア構築性に優れたモバイルネットワーク向け光ファイバ無線の伝送実験に成功(2020年12月7日報道発表)

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)光ファイバー無線技術:電気-光変換器により無線信号波形を光アナログ変調することで、光ファイバー伝送路を介して無線信号を伝送する技術。受信側では、受信した光信号を光-電気変換器により元の無線信号を再生する。
(注2)当社従来技術:以下の文献で報告した内容。
・S.Ishimura, H.Y.Kao, K.Tanaka, K.Nishimura, R.Inohara, and M.Suzuki, “Multi-IF-over-fiber transmission using a commercial TOSA for analog fronthaul networks aiming beyond 5G”, Optics Express, vol.29, Issue 2, pp.2270-2278, 2021
(注3)2022年3月23日時点、KDDI総合研究所調べ。
(注4)576チャンネル:5Gのミリ波用周波数として割り当てられた28GHz帯における帯域幅400MHz、サブキャリア変調方式64QAMの無線信号を基準としたチャンネル数。
(注5)OFC2022:光ファイバー通信国際会議(Optical Fiber Communication Conference and Exhibition)。K.Tanaka et al., OFC2022 W4C.2, “1.314-Tbit/s (576 × 380.16-MHz 5G NR OFDM Signals) SDM/WDM/SCM-Based if-Over-Fiber Transmission for Analog Mobile Fronthaul”
(注6)Cell Free-massive MIMO技術:複数の基地局アンテナを連携させ個々のお客さまに対する無線信号の品質を最適化する基地局構成技術。
(注7)モバイルフロントホール:第5世代無線通信システムにおける、DU(Distribute Unit)とRU(Radio Unit)を接続するネットワーク区間。最寄りの収容局~アンテナ設置場所までのアクセスネットワークに相当する。
(注8)マルチコアファイバー:現在使用されている光ファイバーは、髪の毛ほどの太さのガラス繊維の中に「コア」と呼ばれる光の通り道が1本だけ配置されている。マルチコアファイバーは1本の光ファイバーの中に複数本のコアが配置されており、光ファイバー1本当たりの伝送容量の大幅な増加が期待されている。
(注9)IFoF:Intermediate Frequency over Fiber。複数の無線信号を中間周波数帯(IF帯)で周波数多重し、アナログ光変調により伝送する方式。比較的低い周波数領域で信号処理をするため、安価な光変調器・光デバイスで大容量の無線信号を配信できる。
(注10)ユーザーセントリックアーキテクチャー:KDDIが提唱する次世代ネットワークアーキテクチャー。B5G/6G時代に多様化する通信ニーズに対して、最適な通信環境を提供するために、それぞれのユーザーに特定の基地局がサービスを提供するのではなく、複数の基地局が連携してサービスを提供する。次の文献にて発表済み。
KDDI Beyond 5G/6G ホワイトペーパー(2021年3月初版公開、2021年10月第2版公開)
・K. Yamazaki, T. Ohseki, Y. Amano, H. Shinbo, T. Murakami, and Y. Kishi, “Proposal for a user-centric RAN architecture towards beyond 5G,” 2021 ITU Kaleidoscope Academic Conference, pp. 1–7, Dec. 2021.
(注11)AP Cluster化技術:Cell-Free massive MIMOにおいて、お客さまごとに連携させる基地局を選択して通信を行う技術。高い通信品質を維持したまま、無線信号処理の計算量および消費電力の低減が可能となる。

 

※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。