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空間クロスコネクト装置とマルチコアファイバ光増幅器からなる大規模な空間多重光ネットワークの実証実験に初めて成功

2025年3月28日
国立大学法人香川大学
株式会社KDDI総合研究所
日本電気株式会社
santec AOC株式会社
古河電気工業株式会社

国立大学法人香川大学(本部:香川県高松市、学長:上田 夏生、以下 香川大学)、株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下 KDDI総合研究所)、日本電気株式会社(本社:東京都港区、取締役 代表執行役社長 兼 CEO:森田 隆之、以下 NEC)、santec AOC株式会社(本社:愛知県小牧市、代表取締役社長:上原 昇、以下 santec)、古河電気工業株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森平 英也、以下 古河電工)は、大規模な空間多重光ネットワーク[1]の実現に必要な基盤技術を確立し、成果の一部である空間クロスコネクト[2]装置とマルチコアファイバ[3]光増幅器[4]からなる1,000 km級の大規模な空間多重光ネットワークの実証実験に世界で初めて成功しました。これにより、次世代(Beyond 5G(6G))無線通信サービス[5]の提供に不可欠な、経済的で超大容量の光ネットワークの実現に向けた扉が大きく開かれるものと期待されます。本成果の一部は、2025年3月30日から4月3日にかけて米国サンフランシスコにて開催される光ファイバ通信国際会議(Optical Fiber Communication Conference 2025)にて、最高得点を獲得した論文(Top Scored)の一つとして発表する予定です。
なお、本研究開発は、国立研究開発法人情報通信研究機構(本部:東京都小金井市、理事長:徳田 英幸、以下 NICT(エヌアイシーティー))の「Beyond 5G研究開発促進事業」ならびに「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業[6]」に係る委託研究「Beyond 5G超大容量無線通信を支える空間多重光ネットワーク・ノード技術の研究開発(JPJ012368C00201、JPJ012368C07801)」(代表研究者:香川大学)に基づいて実施されました。

 

1. 報道発表の詳細
(1)研究開発の背景
現在、第5世代(5G)無線通信サービスの導入が進められていますが、国内外ではすでにその次の世代(Beyond 5Gあるいは6G)の無線通信サービスに向けた研究開発が推進されています。将来のBeyond 5G(6G)無線通信サービスは、5Gの特長である「高速・大容量」、「低遅延」、「多数端末との接続」のさらなる高度化が目標とされ、これを実現するためには、ペタビット毎秒[7](Pb/s)級のトラフィックに対応可能な超大容量光ネットワークを経済的に構築することが必要不可欠です。さらに、今後のAI社会を支える基盤として、情報通信ネットワークには、地理的に分散されたデータセンターや無線基地局を接続する重要な役割が求められています。これを可能にする新しい技術として、非結合マルチコアファイバ[8](MCF)、MCF光増幅器およびMCF光スイッチからなる、空間多重光ネットワークが有望視されています。これまで、4コアファイバ(4-CF)や19コアファイバ(19-CF)などを用いた2地点間の長距離空間多重伝送の研究開発が推進されてきましたが、MCFを用いた空間多重光ネットワークに関する報告は、光スイッチ単体や小規模なネットワーク実験に留まってきました。

 

(2)研究開発成果の内容
今回、香川大学、KDDI総合研究所、NEC、santec、古河電工からなる産学連携の研究チーム(PHUJINプロジェクト[9])は、大規模な空間多重光ネットワークの実現に必要な基盤技術(光スイッチ技術、光配線技術、光増幅技術、光ノード技術、光ネットワーク設計・管理技術)の確立と、それらを用いた次世代の光ノード装置、空間クロスコネクト装置の構築に成功しました。さらに、開発技術を統合することで、1,000 km級の大規模な空間多重光ネットワークの実証実験に世界で初めて成功しました。空間多重光ネットワークは、現在の波長多重ネットワークが波長単位の細かい粒度でスイッチングするのとは異なり、低損失なコア選択スイッチ[10]を用いてMCF内のコア単位の粗い粒度でスイッチングすることで、(I)1ビット当たりの転送コストの削減、(II)伝送可能距離の延伸、(III)光ノード装置内の光ファイバ配線数の削減、が可能になると期待されます。

 

実施した空間多重光ネットワークの実証実験は次の2つです。
1)長距離空間多重光ネットワークテストベッド(図1):空間多重光ネットワークにおいて、FIFO[11]デバイスなしの光増幅器を用いたMCF伝送システムは、従来の単一コア光増幅器およびFIFOデバイスを使用したMCF伝送システムと比較すると、余分な損失を引き起こすFIFOデバイスを削減することで光信号の品質向上が可能となります。これにより、より多くのデータをより遠くまで効率的に送信することが可能になります。さらに、柔軟な経路切り替えを可能とするMCF対応の光ノードとして、低損失な空間クロスコネクト[2]装置を導入することで、コストを削減しつつ伝送距離を更に延ばすことができます。今回、コア選択スイッチ[10]を用いた空間クロスコネクト装置とFIFOレス4コアファイバ増幅器[12]、4コアファイバ伝送路からなる周回系長距離光ネットワーク実証実験系を構築することで、1,600 kmの長距離にわたる大規模な空間多重光ネットワークが実現可能であることを初めて実証しました。

 

 

 

図1 長距離空間多重光ネットワークテストベッド

 

 

2)マルチドメイン空間多重光ネットワークテストベッド(図2): MCFの設計・製造技術の進展に伴い、今後、コア数の異なるMCFで構築された複数の空間多重光ネットワークドメイン(領域)が混在すると想定されます。今回、4コアファイバネットワークと16コアファイバネットワークを、コア選択スイッチ[10]からなる空間ゲートウェイ装置を介して相互接続し、大規模なマルチドメイン空間多重光ネットワークにおいても、空間チャネル[13]の設立と切り替えが高品質に実施可能であることを初めて実証しました。4コアファイバネットワークドメインは、4コアファイバリンクとFIFOレス4コアファイバ増幅器[12]から、16コアファイバネットワークドメインは、19コアファイバリンクとクラッド励起[14]19コアファイバ増幅器(16コアのみ使用)から、それぞれ構成されています。

 

 

 

図2 マルチドメイン空間多重光ネットワークテストベッド

 

 

また、開発した基盤技術の内容は次の通りです。
1)光ノード・光ネットワーク技術(香川大学):装置サイズの拡張性と接続自由度に優れた、コア選択スイッチ(CSS)に基づく空間クロスコネクト装置(SXC)構成法とSXC内の各種MCF光デバイスの極性[15]管理法(図3)

 

 

 

図3 光ノード・光ネットワーク技術(香川大学)

 

 

2)光増幅技術(KDDI総合研究所、NEC、古河電工):
・空間多重・分離器(ファンイン・ファンアウト:FIFO[11])を介することなく励起光をエルビウム添加4コアファイバに注入することで、低雑音な光増幅を可能としたFIFOレス4コアファイバ増幅器(KDDI総合研究所)(図4)
・増幅する光信号の伝搬方向をコア毎に設定可能な、全方向7コアファイバ増幅器(NEC)(図5)
・19本のコアを一括で励起可能な、クラッド励起[14]19コアファイバ増幅器(古河電工)(図6)

 

 

 

図4 光増幅技術 :FIFOレス4コアファイバ増幅器(KDDI総合研究所)

 

 

 

図5 光増幅技術 :全方向7コアファイバ増幅器(NEC)

 

 

 

図6 光増幅技術 :クラッド励起19コアファイバ増幅器(古河電工)

 

 

3)光スイッチ技術(santec):19-CFコア選択スイッチ[10](CCS)や19-CFコアセレクタ[16](CS)などのMCF光デバイス(図7)

 

 

 

図7 光スイッチ技術(santec):19-CFコア選択スイッチと19-CFコアセレクタ

 

 

4)光配線技術(古河電工):高次モードとコア間クロストーク、曲げ損失を最小化した19-CFコード/コネクタ、ならびに19-CF空間多重器(ファンイン・ファンアウト:FIFO)などMCF光デバイス(図8)

 

 

 

図8 光配線技術(古河電工): 19-CF空間多重器(FIFO)

 

 

(3)成果がもたらす効果
将来のBeyond 5G(6G)無線通信サービスは、5Gの特長である「高速・大容量」、「低遅延」、「多数端末との接続」のさらなる高度化が目標とされ、これを実現するためには、ペタビット毎秒[7](Pb/s)級のトラフィックに対応可能な超大容量光ネットワークを経済的に構築することが必要不可欠です。今回の空間クロスコネクト装置とマルチコアファイバ光増幅器からなる大規模な空間多重光ネットワークの実証実験により、将来のBeyond 5G(6G)無線サービスを支える経済的で超大容量の光ネットワークの実現に向けた扉が大きく開かれるものと期待されます。

 

 

2.用語の解説

 

[1] 空間分割多重光ネットワーク:現在の光ネットワークは、光ファイバ中に波長多重された光信号を光ノードにおいて波長単位で経路振り分けが行われています。空間多重光ネットワークでは、マルチコアファイバの複数コアを用いた空間多重により伝搬された光信号を、空間クロスコネクト装置にてコア単位で経路振り分けを行います。空間多重光ネットワークは、波長単位よりも大きな粒度であるコア単位で経路振り分けすることで、超大容量の光ネットワークを経済的に実現可能であると期待されています。
[2] 空間クロスコネクト(SXC)装置:マルチコアファイバ(MCF)を入出力ポートに配備した光ノードの一種であり、マルチコアファイバ(用語の解説[3])の複数コアを用いた空間多重により伝搬された光信号を、行き先に応じてコア単位で経路振り分けします。用語の解説[10]で説明するコア選択スイッチ(CSS)を用いて構築することで、低損失かつ低コストのSXCの実現が期待されます。
[3] マルチコアファイバ(MCF):現在、使用されている光ファイバは、髪の毛ほどの太さのガラス繊維の中にコアと呼ばれる光の通り道が1本だけ配置されています。マルチコアファイバは1本の光ファイバの中に複数本のコアが配置されており、光ファイバ1本当たりの伝送容量の大幅な増加(コア数倍)が期待されています。
[4] 光増幅器:光伝送路を通過することで減少した光信号のパワーを増幅する装置。本実験で使用した光増幅器は、エルビウムイオンなどを添加した光ファイバ内のコアに、光信号波長よりも短い特定の波長の励起光を光信号とともに入力することで光信号を増幅するエルビウム添加ファイバ増幅器(EDFA)です。
[5] Beyond 5G(6G)無線通信サービス:第5世代無線通信サービス(5G)の特長(高速・大容量、低遅延、多数端末との接続)のさらなる高度化に加えて、空・海・宇宙への利用領域の拡張、超低消費電力、超高信頼などの特長を備えることが想定されています。Beyond 5G無線通信サービスは、第6世代(6G)無線通信サービスとも呼ばれます。
[6] 革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業:NICT 「革新的情報通信技術(Beyond 5G(6G))基金事業ホーム」
[7] ペタビット毎秒:ペタ(記号P)は単位の前に付けられる接頭語の一つであり、10の15乗を表します。1ペタビット毎秒(Pb/s)は、1秒当たり、10の15乗ビットのディジタル信号を送信することを意味します。
[8] 非結合マルチコアファイバ(非結合MCF):マルチコアファイバ中に複数配置されているコアの間で光パワーの結合が非常に小さく、事実上、それぞれのコアが独立した光伝送路とみなせるマルチコアファイバ。
[9] PHUJINプロジェクト
[10] コア選択スイッチ(CSS):MCFを入出力ポートに配置した1✕N光デバイス。入力MCFポート中の任意のコアを任意の出力MCFポートの同一番号のコアに出力することができます。
[11] FIFO(ファンイン・ファンアウト):マルチコアファイバ内の各コアをコア数分の単一モードファイバに空間的に多重・分離する光デバイス。
[12] FIFOレス4コアファイバ増幅器:4コアファイバの側面研磨を利用した光カップラを採用することで、励起光をエルビウム添加4コアファイバに注入することを特徴とする4コアファイバ増幅器。FIFO(ファンイン・ファンアウト)(用語の解説[11] 参照)による過剰損失を回避できるので、低雑音な光増幅を実現することが可能になります。
[13] 空間チャネル:送信局から受信局までの経路上の各MCFリンク内のコアをSXCで接続して設立した、光信号の物理的な通信路。
[14] クラッド励起:エルビウム添加マルチコアファイバ(MC-EDF)としてガラスクラッドの外側にポリマークラッドと被覆があるダブルクラッド構造を採用して、テーパー加工したマルチモードファイバをMC-EDFに巻きつけることで、マルチモード半導体レーザで発生させた励起光をMC-EDFの各コアに結合させる、励起方法のこと。
[15] マルチコアファイバ(MCF)の極性:マルチコアファイバ(MCF)のそれぞれの端におけるコア配置が、左右反転すること。
[16] コアセレクタ(CS):入力MCFポートと出力単一モードファイバ(SMF)をもつ光デバイス。入力SMFのコアを出力MCF中の任意のコアに出力することができます。コア選択スイッチ(CSS)(用語の解説[10]参照)と一緒に用いれば、クライアント光信号を、任意の方向のマルチコアファイバリンクの任意のコアに接続可能な、高い接続自由度をもつ空間クロスコネクト装置(用語の解説[2]参照)が実現できます。

 

 

3.講演論文

 

(1)題名:”Core-level Routing in Long-haul MCF Transmission System with FIFO-less Multicore EDFA and Spatial Cross-connect”(Top Scored)
著者:1Kosuke Komatsu, 1Shohei Beppu, 1Daiki Soma, 1Yuta Wakayama, 1Noboru Yoshikane, 2Masahiko Jinno, 1Takehiro Tsuritani
所属:1KDDI Research, Inc., 2Kagawa University, 
講演番号:M3F.1
講演日時:Monday, March 31, 2025
講演国際会議:Optical Fiber Communication Conference(OFC)2025

 

(2)題名:”Demonstration of 4-Core/16-Core Fiber Heterogeneous Spatial Channel Network Comprising 19-Core Fiber Core Selective Switch-Based Spatial Gateway, 4-Core EDFAs, and 19-Core EDFAs”
著者:1Takumi Tani, 2Daiki Soma, 3Ryohei Otowa, 4Yusuke Matsuno, 1Kyosuke Nakada, 2Kosuke Komatsu, 3Yuji Hotta, 4Tsubasa Sasaki, 1Rika Tahara, 2Shohei Beppu, 4Koichi Maeda, 1Takuma Izumi, 2Yuta Wakayama, 2Noboru Yoshikane, 2Takehiro Tsuritani, 3Yasuki Sakurai, 4Ryuichi Sugizaki, and 1Masahiko Jinno
所属:1Kagawa University, 2KDDI Research, Inc., 3santec AOC corporation, 4Furukawa Electric Co., Ltd.
講演番号:M3F.2
講演日時:Monday, March 31, 2025
講演国際会議:Optical Fiber Communication Conference(OFC)2025

 

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