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世界初、従来比24倍115.2THzの超広帯域光ファイバ伝送実験に成功

~6G時代のデータセンター間の大容量高速通信を支える~

2023年10月20日
KDDI株式会社
株式会社KDDI総合研究所
住友電気工業株式会社
古河電気工業株式会社
OFS Laboratories, LLC

KDDI株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長 CEO:髙橋 誠、以下、KDDI)、株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下、KDDI総合研究所)、住友電気工業株式会社(本社:大阪府大阪市、社長:井上 治、以下、住友電工)、古河電気工業株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:森平英也、以下、古河電工)、及びOFS Laboratories, LLC(本社:米国、以下、OFS)は、標準的な光ファイバと同じ250μmの光ファイバ(注1)の中に12個の独立したコアを高密度に配置した非結合12コア光ファイバと、広帯域なO帯光ファイバ増幅器(以下、BDFA)を組み合わせることにより、標準光ファイバ径の光ファイバ伝送実験では世界最大となる伝送帯域幅115.2THz(従来のC帯に比べて約24倍)の超広帯域伝送実験に成功しました(伝送容量484Tbps、伝送距離31km)(注2)。
6G時代には、IoT端末やモビリティサービスの普及により、現在よりもはるかに膨大で多様なデータがネットワークを流れることが想定され、ネットワークを支えるためには光ファイバ通信の容量をより拡大することが不可欠です。今回の成果は、6G時代のデータセンター間の大容量高速通信を支える技術となります。また、光ファイバ1本あたりの通信容量を大幅に拡大できることから、より少ないファイバ心線数で同じ通信容量を確保することができ、通常の管路や設備を省スペースで活用することが可能な技術として期待されます。 

 

 

 

図1:今回の成果

 

 

なお、今回の成果は、2023年10月1日~5日に開催された光通信技術に関する世界最大規模の国際学術会議ECOC2023(European Conference on Optical Communications)のポストデッドライン論文(注3)として報告されました。

 

【背景】
6G時代のネットワークを支えるためには光ファイバ通信の容量をより拡大することが求められています。
光ファイバ1本あたりの通信容量は、一般的に光の波長をわずかに変えて多重伝送する波長分割多重方式により、大容量化が可能です。
これまで、KDDI総合研究所、住友電工、古河電工は1本の光ファイバに複数のコアがあるマルチコア光ファイバの実用化に向けた取り組みを進めてきました(注4)。また、KDDI総合研究所、古河電工、OFSは、2023年3月に、新たにC帯やL帯の約2倍の伝送帯域があるO帯の活用に向けて、O帯コヒーレント高密度波長多重(DWDM)伝送(注5)実験を行い成功しました(注6)。さらに、住友電工は2023年3月に、高密度光ケーブルの実現に適した、標準的な光ファイバと同じ250μmの太さの高密度非結合12コア光ファイバを発表しています(注7)。

 

【今回の成果】
このたび、KDDI、KDDI総合研究所、住友電工、古河電工、OFSは、標準的な光ファイバと同じ250μmの太さの高密度非結合12コア光ファイバを用い、コア間クロストークの影響が大幅に低減されたO帯コヒーレントDWDM伝送技術を組み合わせることで、伝送帯域幅115.2THzの大容量伝送実験に成功しました。

 

詳細は別紙をご参照ください。

 

 

 

<別紙>

 

■ 各社の役割
・KDDI、KDDI総合研究所
大容量伝送を可能にする双方向O帯コヒーレントDWDM伝送技術の開発

 

 

 

図2:双方向O帯コヒーレントDWDM伝送システムのイメージ図

 

 

・古河電工、OFS
光ファイバの損失を広帯域にわたって1台で効率よく補償するO帯ビスマス添加光ファイバ増幅器の開発

 

 

 

図3:O帯ビスマス添加光ファイバ増幅器(BDFA)の構造

 

 

・住友電工
ファイバ1本あたりの通信容量を大幅に向上させる高密度非結合12コア光ファイバの開発

 

 

 

図4:従来の光ファイバ(左)と同じ標準的な250μmのコーティング外径の中に
12個のコアを高密度に配置した12コア光ファイバ(右)のイメージ図

 

 

O帯は、C帯に比べて波長分散の影響が小さいため、波長分散(注8)を補償するための信号処理負荷を軽減できるという特長がありますが、非線形光学効果(注9)により光信号の品質が劣化しやすいという難点があります。そのため、O帯は光ファイバ通信システムを大容量化するには不向きであるとされてきました。KDDI総合研究所は、光信号の送信パワーを最適化することで非線形光学効果を抑圧し、大容量伝送を可能にするO帯コヒーレントDWDM伝送技術を開発しました。
光ファイバ通信の大容量化には、より多くの光信号を波長多重することが有効ですが、そのためにはより広い波長帯域を増幅する光ファイバ増幅器が求められます。古河電工とOFSが開発したBDFAは、C帯とL帯を合わせた帯域よりも広いO帯全域にわたって光信号を増幅することが可能です。本実験では、O帯のうち9.6THzにわたってコヒーレントDWDM信号を増幅したことにより、C+L帯に匹敵する超広帯域を実現できることを示しました。
さらに、1本の光ファイバの中に複数の光信号の通り道であるコアを配置するマルチコア光ファイバを適用すれば、光ファイバ1本あたりの通信容量をコア数の分だけ拡大できます。住友電工は、C帯に比べてO帯の光信号がコアにより強く閉じ込められることに着目し、標準的な光ファイバの外径である250μmの中に独立した12個のコアを高密度に集積配置した非結合12コア光ファイバを開発しました。
これらの3つの技術を組み合わせることで、光ファイバ1本あたりの利用可能な帯域の合計を115.2THzまで拡張できることを示し、その一例として484Tbps大容量伝送実験に成功しました。これは、複数の波長帯域を組み合わせていない、単一の波長帯域の実証実験としては世界最大の帯域幅と通信容量となります。
 

 

【今後の展望】
今後は、データセンター間通信容量の更なる大容量化を目指し、超広帯域O帯コヒーレントDWDM伝送システムの実用化に向けて、送受信機や光ファイバ増幅器、ならびにデジタル信号処理アルゴリズムの研究開発を進めていきます。

 

本研究開発の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託業務として受託しているプロジェクト JPNP20017の結果、得られたものです。

 

 

■ KDDI総合研究所の取り組み
KDDI総合研究所は、2030年代を見据え、高速大容量・低消費電力なオールフォトニックネットワークとデジタルツインを注力領域として7つのテクノロジーとそれらを密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進しています。今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。
KDDI Accelerate 5.0
Beyond 5G/6G ホワイトペーパー

 

 

 

(注1)既存の光ケーブルを利用可能な標準被覆径をもつマルチコア光ファイバ
(注2)2023年10月20日 KDDI総合研究所調べ
(注3)ポストデッドライン論文:一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文。会議期間中に論文選考が行われ、高い評価を受けた研究成果のみ報告の機会を得ることができる。
(注4)2022年3月28日報道発表
世界に先駆け、マルチコアファイバによる光海底ケーブルの大容量化を実現する基盤技術を開発・実証
(注5)コヒーレント高密度波長多重(DWDM)伝送:コヒーレント伝送とは、光の強度だけでなく波としての性質を利用して、従来の強度変調‐直接検波技術と比べて大量のデータを送信する方式。高密度波長多重(DWDM)とは、光ファイバの伝送密度を高めるWDM(Wavelength Division Multiplexing:波長分割多重)技術において、波長を密に多重した方式。
(注6)2023年5月18日報道発表
超広帯域活用で光ファイバ通信の大容量化を実現、O帯コヒーレント高密度波長多重伝送(DWDM)実験に世界で初めて成功
(注7)T. Hayashi, A. Inoue, Y. Suzuki, Y. Norisugi, K. Kawamoto, J. Takano, T. Nagashima, T. Hirama, K. Takeda, Y. Shimoda, and F. Sato, "Ultra-High-Density Microduct Cable with Uncoupled 12-Core Fibers with Standard 250-µm Coating," in Optical Fiber Communication Conference (OFC) 2023, Technical Digest Series (Optica Publishing Group, 2023), paper Tu2C.2.
(注8)波長分散:光の伝搬速度が波長ごとに異なる速度で伝搬する現象。光信号はわずかに異なる波長成分を含むため、伝搬距離が長いほど、光信号は波長分散の影響で歪む。
(注9)非線形光学効果:光信号が自身の光信号の成分または異なる波長に多重化された別の光信号の成分と干渉する現象で、光信号を歪ませる要因となる。

 

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