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日本人エピゲノム年齢推定法の開発と百寿者研究により、健康長寿に関与しうるゲノム上の特徴を発見

2023年2月2日
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構
慶應義塾大学医学部
株式会社KDDI総合研究所

【発表のポイント】
1.岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(IMM)、慶應義塾大学医学部とKDDI総合研究所は、今回初めて日本人の血液のエピゲノム*1情報から年齢を推定する新規手法を開発し、110歳以上のスーパーセンチナリアンを含む100歳以上の百寿者のエピゲノム年齢*2を計算しました。
2.その結果、百寿者ではエピゲノム年齢が若く維持されていることが確認できました。
3.特に百寿者ではがん遺伝子や認知機能に関わる遺伝子周辺のエピゲノム状態が若い人と同程度に維持されていることが明らかになりました。
4.一方で百寿者の抗炎症に関与する遺伝子周辺のエピゲノム状態は、より老化が進んだような状態にあることが明らかになりました。
5.突出した健康長寿の達成には、若いエピゲノム状態の維持だけではなく、特定のエピゲノム領域がより老化が進んだ状態になる変化も重要であると考えられます。
6.今後、今回開発したエピゲノム年齢を指標に健康長寿を達成するための生活習慣改善や予防方法の開発が期待されます。

 

【概要】
岩手医科大学いわて東北メディカル・メガバンク機構(本部:岩手県紫波郡矢巾町、機構長:佐々木真理、以下「IMM」)生体情報解析部門の小巻翔平 特命講師、同部門長の清水厚志 教授、慶應義塾大学医学部(本部:東京都新宿区、医学部長:金井隆典)病理学教室の新井恵吏 准教授、同教室の金井弥栄 教授、慶應義塾大学医学部生理学教室の岡野栄之 教授、慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターの新井康通 センター長、広瀬信義 共同研究員、KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元)の永田雅俊 コアリサーチャー、米山暁夫 エキスパートらの研究グループは、東北メディカル・メガバンク(TMM)計画*3地域住民コホート研究*4参加者のうち20代から70代までの健常者*5 421名を選定し、従来用いられてきたDNAマイクロアレイ*6による年齢予測法とは異なる、超並列型DNAシークエンサーの情報を用いた年齢を推定する新規手法を開発し、東京百寿者研究(TCS)*7と全国超百寿者研究(JSS)*8の100歳以上の百寿者94名のエピゲノムの状態を解析しました。
その結果、百寿者の推定年齢は暦年齢よりも若いこと、とくにCD44を中心としたがん関連遺伝子とCNTNAP2などの認知機能にかかわる遺伝子群のエピゲノム状態が若い人と同程度に維持されていることがわかりました。一方で、SMAD7などの抗炎症に関与する遺伝子周辺のエピゲノム状態は、より老化が進んだような状態にあることが明らかになりました。
上記の成果は、国際科学雑誌 The Lancet Healthy Longevity誌に2023年2月1日付(オンライン公開)で掲載されました。

 

研究背景および研究成果詳細は、こちらを参照ください。

 

【研究資金】
本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)東北メディカル・メガバンク計画補助金、慶應義塾大学次世代研究プロジェクト推進プログラム、KDDI総合研究所共同研究費にて実施しました。本研究の実施にあたり、岩手医科大学と慶應義塾大学、岩手医科大学とKDDI総合研究所は、それぞれ研究開発契約を締結しています。

 

【論文情報】
掲載雑誌:The Lancet Healthy Longevity(オンライン)

 

論文タイトル(英語):
Epigenetic profile of Japanese supercentenarians: a cross-sectional study

 

論文タイトル(日本語):
日本人超百寿者のエピゲノムの特徴:横断的研究

 

著者名(英語):
Shohei Komaki1,2, Masatoshi Nagata3, Eri Arai4, Ryo Otomo1, Kanako Ono1, Yukiko Abe5, Hideki Ohmomo1,2, So Umekage1, Natsuko O. Shinozaki1, Tsuyoshi Hachiya1,2, Yoichi Sutoh1, Yayoi Otsuka-Yamasaki1, Yasumichi Arai5, Nobuyoshi Hirose5, Akio Yoneyama3, Hideyuki Okano6, Makoto Sasaki1,7, Yae Kanai4*, and Atsushi Shimizu1,2*
*Joint senior authors

 

著者名(日本語):
小巻翔平1,2、永田雅俊3、新井恵吏4、大友 亮1、小野加奈子1、阿部由紀子5、大桃秀樹1,2、梅影 創1、篠﨑夏子1、八谷剛史1,2、須藤洋一1、山﨑-大塚弥生1、新井康通5、広瀬信義5、米山暁夫3、岡野栄之6、佐々木真理1,7、金井弥栄4*、清水厚志1,2*
*共同最終著者

 

著者所属:
1.岩手医科大学 いわて東北メディカル・メガバンク機構
2.岩手医科大学 医歯薬総合研究所 生体情報解析部門
3.KDDI 総合研究所 共創部門 健康医療グループ
4.慶應義塾大学 医学部 病理学教室
5.慶應義塾大学 医学部 百寿総合研究センター
6.慶應義塾大学 医学部 生理学教室
7.岩手医科大学 医歯薬総合研究所 超高磁場MRI診断・病態研究部門

 

論文URL

 

【用語解説】
*1 エピゲノム:
エピゲノムとは、ゲノムに加えられた修飾のことで後天的に変化するもので、DNAメチル化はその1つです。DNAメチル化はDNAを構成する塩基A(アデニン)、C(シトシン)、G(グアニン)、T(チミン)のうち、主にCとGが並ぶ部位(CpG)のCにメチル基(-CH3)が付くことをいいます。発生時期の細胞の種類の決定や遺伝子発現の制御などに関与しており、生活習慣や環境化学物質の曝露などによって後天的に変化します。

 

*2 エピゲノム年齢:
一般的にはCpGサイトのDNAメチル化状態に基づいて推定した個人の年齢を指します。複数の計算モデルが提唱されており、代表的なものは2013年に発表された Pan-tissue clock で、CpGサイト353個のメチル化率に基づいて高精度に暦年齢を推定できます。また暦年齢のほか、健康年齢や生物学的年齢、寿命など様々な指標に注目したモデルが存在します。

 

*3 東北メディカル・メガバンク(TMM)計画:
東日本大震災からの復興事業として平成23年度から始められ、被災地の健康復興と、個別化予防・医療の実現を目指しています。
IMMと東北大学東北メディカル・メガバンク機構(ToMMo)を実施機関として、東日本大震災被災地の医療の創造的復興および被災者の健康増進に役立てるために、合計15万人規模の地域住民コホート調査および三世代コホート調査を平成25年より実施し、収集した試料・情報をもとにバイオバンクを整備しています。
東北メディカル・メガバンク計画は、平成27年度より、AMEDが本計画の研究支援担当機関の役割を果たしています。

 

*4 コホート研究:
ある特定の集団を一定期間にわたって追跡し、生活習慣などの環境要因や遺伝的要因などと疾病発症との関係を解析するための研究です。未来に向かって調査を進める研究を前向きコホート研究といいます。

 

*5 健常者:
本研究では非喫煙者で、がんや糖尿病の罹患歴がなく、BMIが25を下回る人を健康な方として選択しました。

 

*6 DNAマイクロアレイ:
DNAマイクロアレイは、スライドグラスなどに数千から数十万のDNA断片を結合させたもので、各スポットには特定の遺伝子やゲノム配列の断片が含まれている。複数の検体の何万もの遺伝子の発現レベルや数十万のゲノム多型、そして数十万のCpGサイトのメチル化を同時に解析することができる技術です。

 

*7 東京百寿者研究(TCS):
慶應義塾大学病院と東京都老人総合研究所(現 東京都健康長寿医療センター研究所)との共同で実施された、東京23区在住の百寿者を対象とした調査です。

 

*8 全国超百寿者研究(JSS):
慶應義塾大学医学部百寿総合研究センターが実施している、105歳以上の超百寿者を対象とした調査です。

 

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