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世界初、南極からの8K映像のリアルタイム伝送に成功

~南極地域観測隊の生活環境向上や情報発信強化を目指して~

2022年12月15日
株式会社KDDI総合研究所
大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)と大学共同利用機関法人情報・システム研究機構 国立極地研究所(所長:中村卓司、以下「極地研」)は、2022年11月11日、昭和基地と極地研立川キャンパスを結ぶ衛星通信回線(最大7Mbps)を用い、南極域としては世界で初めて(注1)8K映像のリアルタイム伝送の実証実験(以下「本実証」)に成功しました。KDDI総合研究所が開発した遠隔作業支援システムを用いることで、狭帯域なネットワーク(注2)においても、また、運搬や設置スペースに制約があっても、スマートフォンだけで手軽かつ安定的に8K映像の伝送が可能となります。
昭和基地と国内を結ぶ衛星通信回線は、国内研究拠点への現地観測データの伝送、隊員の遠隔医療支援や家族とのWeb会議といった生活環境の向上、昭和基地の様子を伝える広報イベントなど、幅広く活用されています。映像品質を従来のHDTVから8K(注3)へ大幅に向上させることで、昭和基地の自然や隊員を取り巻く環境を高い臨場感で伝えられるため、体験価値・教育的価値を高めた形でのコンテンツ提供が可能となります

 

 

 

<実証実験の様子。左:昭和基地でスマートフォンを使い8K映像を伝送する隊員、右:実験ポイントから見た昭和基地>

 

 

 

<ズームした際の映像品質比較。左:HDTV、右:8K。8K映像により、文字や模様を明瞭に表現>

 

 

【背景】
・南極には通年観測を続けている基地(越冬基地)だけでも約40あり、気象、大気、雪氷、地質、生物、海洋、宇宙物理などのさまざまな観測・研究を行っています。
・日本の昭和基地には2004年にインテルサット衛星通信設備が設置され、観測データを常時国内に伝送することによる研究の進展や、隊員の福利厚生の充実化を目的として運用されてきました。そのほか、国内小中高校をはじめ海外の学校や、一般への情報発信などにも活用されてきました。当初は1Mbps程度の速度でしたが、2022年11月に最大7Mbpsまで増速し、活用の幅が一段と広くなりました。
・インテルサット衛星通信を利用した映像伝送は2004年から行われていましたが、これまでの映像品質はHDTVが上限でした。昭和基地と国内の病院を衛星回線でつないで行う遠隔医療支援や、離れて暮らす家族との顔が見えるコミュニケーションにおいて、より高精細な映像が求められていました。また、教育目的の情報発信ニーズの高まりからも、更なる映像品質の向上が求められていました。

 

本実証は、KDDI総合研究所が開発した遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」(注4)および昭和基地のネットワーク環境と衛星通信設備を活用し、南極域としては世界で初めて8K映像のリアルタイム伝送の実験に成功したものです。
本実証で得た知見を基に、今後、さまざまな利用シーンにおいて、狭帯域での8K映像のリアルタイム伝送の有用性検証や画質、遅延、安定性などの課題の抽出と改善を行い、2023年度の実用化(昭和基地-国内間での映像伝送の実運用での利用および8K映像の商用品質化)を目指します。

 

詳細は別紙をご参照ください。

 

 

 

<別紙>

 

【本実証の概要】
(1)実施時期:2022年11月11日

 

(2)実施目的:高精細映像のリアルタイム伝送により、隊員の健康状態や生活の様子、昭和基地の自然や環境を高い臨場感で日本および海外に伝えるための技術を実証する

 

(3)検証内容
・昭和基地における映像伝送機器利用のための検証
・受信映像品質の検証
・高精細映像を衛星通信回線で効率よく伝送するための、送信帯域制御技術の検証

 

(4)システム構成
昭和基地において「VistaFinder Mx」を搭載した8K動画撮影対応スマートフォンを用いて撮影・圧縮し、衛星通信回線を通じて伝送しました。その映像をKDDI research atelier (東京都港区)に設置した受信システムで受信・伸長し、8K映像としてモニター表示するとともに、安定した映像品質を維持できることを確認しました。

 

 

 

図1 8K映像伝送システムの構成概念図

 

 

8K高精細映像のリアルタイム伝送が可能な遠隔作業支援システム「VistaFinder Mx」は、国際標準の映像符号化方式H.265/HEVCコーデックを搭載しており、画質を維持したままデータ量を削減し、モバイル環境でも安定した高品質な映像伝送を実現します。
従来、8K映像の伝送は広帯域なネットワークが必要であるため、昭和基地のような限られた通信帯域の場所からのリアルタイム伝送は困難でした。今回、「VistaFinder Mx」により、狭帯域なネットワークでも実用的な品質で8K映像を伝送することが可能となり、また、送信に必要な機器は小型・軽量なスマートフォンのみであるため、昭和基地のように運搬や設置スペースの制約がある場所でも手軽に行うことができます。

 

(5)本実証分担者
河村 圭(KDDI総合研究所)
辻 智弘(KDDI総合研究所)
木谷佳隆(KDDI総合研究所)
岡田雅樹(国立極地研究所情報基盤センター)
藤野博行(国立極地研究所南極観測センター)
なお、本実証は株式会社KDDIテクノロジー(本社:東京都江東区、代表取締役社長:大井龍太郎、以下「KDDIテクノロジー」)の技術協力を得て実施しました。

 

(6)昭和基地作業担当者
三井俊平(第63次南極地域観測隊 越冬隊員、KDDIから国立極地研究所に出向の上、南極地域観測隊に派遣)
その他、阿部公樹(第62次南極地域観測隊 越冬隊員、KDDIから国立極地研究所に出向の上、南極地域観測隊に派遣。現在はKDDIに帰任)が事前評価用8K映像の撮影を担当しました。

 

本実証は、2019年から行っている「南極地域観測隊の記録と情報発信のための新しい映像伝送技術の開発研究と画期的な広報映像の社会発信のための実証実験」の一環です。

 

【今後の展望】
極地研は、今後、研究所の展示施設「国立極地研究所 南極・北極科学館」(東京都立川市)において、本実証システムを公開するとともに、実証運用を行う予定です。映像運用システムの運用レベルの向上を図りながら、国内インターネットが利用可能な環境における活用を検討し、2023年度の実用化を目指します。
KDDI総合研究所は、本実証を通じて、極地研による地球環境に関わる研究や教育の高度化を支援していきます。また、スマートフォンを活用した、狭帯域ネットワークにおける8K映像のリアルタイム伝送の有用性検証や課題の抽出・改善を行い、世界中どこからでも利用可能とすることで、現場作業のDX化の加速や高度化など、社会インフラの保全ならびに強靭性確保に貢献していきます。

 

 

【参考:ライブ映像伝送を用いた広報活動の例】

 

 

写真 過去に実施された南極との中継の様子(HDTV品質)。観測隊が昭和基地の内部や現地活動を紹介し、会場を訪れた方々と直接質疑応答を行いました。

 

 

 

(注1)南極域からの8K映像のリアルタイム伝送として世界初(2022年12月15日時点、KDDI総合研究所および極地研調べ)  
(注2)通信速度が比較的低速なネットワークのこと。ここでは、衛星放送などの高速なネットワークへの対義語として利用している。
(注3)HDTV(1920×1080、2K)の16倍(7680×4320)の画素数により、より高精細で臨場感のある映像表現が可能
(注4)世界初、スマートフォンによる8K映像伝送に対応した遠隔作業支援システムを開発(2021年3月25日報道発表)
なお、製品版の「VistaFinder Mx」は2022年10月1日から、KDDIテクノロジーが提供しています。

 

※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。