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糖代謝異常の妊婦を対象に健康・診療情報の利活用を検証する臨床研究を開始

~妊婦の約15%が糖代謝異常。患者さん一人一人に寄り添った治療を目指して~

2022年10月28日
学校法人埼玉医科大学
株式会社KDDI総合研究所

学校法人埼玉医科大学(埼玉県入間郡、理事長:丸木清之 、学長:別所正美、以下「埼玉医科大学」)と株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、2022年10月28日から糖代謝異常をもつ妊婦を対象とした臨床研究(以下「本研究」)を開始しました。
本研究を通じて、母子の健康づくりに寄与するとともに、安心・安全な個人の健康情報(PHR)(注1)・診療情報(EHR)(注2)の利活用による高度な精密医療(プレシジョン・メディシン)(注3)の実現を目指します。
本研究はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)の研究課題「ダイナミック・コンセントを実装する先進的糖尿病デジタルデバイスの開発研究」(注4)となります。

 

 

 

図1.臨床研究の全体像

 

 

<背景>
・昨今のスマートフォンや健康管理アプリなどの普及に伴い、患者さん個々のPHRを医療分野に活用する取り組みが広がりつつあります。
・医療現場では取得できない医学上重要な在宅時の健康情報を利活用することで精密な診断や個人にとって最適な治療を受けられることが期待される一方、自身のPHRが誰にどのように使われるかの不安から、患者さんからの積極的なPHRの提供は進んでいません。
・個人の情報利用に関しての認識や考えは変化することから、ダイナミック・コンセント(注5)機能によって、個人情報の取り扱いにおいてリアルタイムに個人の意思を反映することができる安心・安全な情報流通システムの早期実現が望まれています。
・また、英国や豪州などでは一般化している、医療機関がEHRを患者さんと共有する取り組みも進んでいません。異なる医療機関でEHRを共有するには原則として患者さんの同意が必要となるため、EHRを患者さんが保有すれば、同意手続きと情報提供手続きを一元化した「個人を起点とした情報流通システム」を新たに構築できる可能性があります。
・妊婦のうち約15%が糖代謝異常をもつと言われており、近年の晩婚化・晩産化に伴い、増加傾向にあります(注6)。糖代謝異常をもつ妊婦は、産科に加え内科の受診が必要なことで発生する頻回な通院、慣れない日々の食事療法や煩雑な薬の管理など、身体的および精神的な負担が問題になっています。PHRとEHRの情報統合を進め患者さんにとって実践しやすい医療サービスを提供し、患者さんの負担を大きく軽減することが期待されています。

 

埼玉医科大学、KDDI総合研究所は、安心・安全な情報流通の仕組みを構築し、医療機関と患者さんがもつ双方の情報の流通を促すことで、患者さんの意思に寄り添った精密医療(プレシジョン・メディシン)に関する臨床研究を進めていきます。また、患者さん一人一人に最適化された健康管理・保健医療サービスを社会実装することを目指します。

 

詳細は別紙を参照ください。

 

 

 

【別紙】

 

1.本研究の概要
研究期間:2022年10月28日から5年間を予定
実施場所:埼玉医科大学総合医療センター、愛和病院、恵愛病院、瀬戸病院
※中核病院である埼玉医科大学総合医療センターから開始し、今後、埼玉県に拠点をもち、全国でも有数の年間分娩取扱数をもつ産婦人科医院である愛和病院(川越市、院長 上里忠司)、恵愛病院(富士見市、理事長・院長 林 隆)、瀬戸病院(所沢市、理事長兼院長 瀬戸 裕)とも協力して進めていきます。
対象者 :糖代謝異常をもつ妊婦のうち、本研究に参加を同意していただく方
実施内容:ダイナミック・コンセント機能を実装した携帯端末による、オンラインも活用した妊娠糖代謝異常治療の有効性を科学的に検証していきます。

 

対象者は、埼玉医科大学が新たに開発した妊娠糖代謝異常症治療支援アプリ「MLink」を用いてPHRを登録します。MLinkに登録された情報は医療機関が閲覧可能なほか、医療機関から患者さんへのEHR共有もMLinkを介して行われます。
本研究で使用するシステムの機能・特徴は以下の通りです。

 

(1)主要な産科電子カルテシステムに対応し、暗号化されたQRコードを用いた当事者以外が閲覧できない、医療機関から患者さんへのEHR情報提供スキームの採用
(2)患者さんに対する先進的な電磁的同意システムとしてダイナミック・コンセントの採用と、患者さんのダイナミック・コンセント設定に基づく医師・患者間でのPHR・EHRの共有スキームの採用
(3)システム構築において、HL7-FHIR (注7)、Smart Health Cards(注8), OneM2Mなどの国際標準規格の積極的な採用によるシステムのオープン性の担保
(4)PHRとEHRを統合して表示することにより、患者さんに個別化された高品質なオンライン診療を提供可能とするUI/UXの採用

 

2.各組織の役割・目的
埼玉医科大学は、川越市に位置する埼玉医科大学総合医療センターで、本研究の中核病院として産科・糖尿病内科で連携して患者さん一人一人に最適化された医療の推進と地域医療連携を行うとともに、医学的エビデンスの創出に向けて、学術的成果を発信します。
KDDI総合研究所は、自社で研究開発したパーソナルデータの流通とプライバシー保護の両立を図るPPM(注9)技術を生かし、患者さんにとってわかりやすいユーザー同意取得(ダイナミック・コンセント機能)の設計、QRコードを用いた患者さんへのEHR情報提供スキームの設計を行い、安心・安全なヘルスケアデータ流通の研究を推進します。

 

<産科カルテベンダーの主な役割>
産科電子カルテを扱う以下4社は、EHRの患者さんへの提供を可能とする標準化された機能を各カルテシステムに搭載し、機能拡張を行います。なお、4社の協力により、産科カルテの約90%が本研究に対応します。

 

タック株式会社 岐阜県大垣市、代表取締役社長 髙橋繁樹
トーイツ株式会社 東京都渋谷区、代表取締役兼執行役員CEO 池田一寛
株式会社ニューウェイブ 愛媛県新居浜市、代表取締役社長 日野美江子
株式会社ミトラ

香川県高松市、代表取締役 藤井篤人

 

 

3.今後の展望
患者さんの意思に基づく医療情報の共有体制の構築と、PHRとEHRの情報流通システムを活用した最適な地域医療と診療体制の形成を図ります。
さらに、本研究において有効性を確認した上で、2024年度にはPHR・EHRを活用した健康管理・保健医療サービスの社会実装を目指します。
これにより、糖代謝異常をもつ妊婦にとっては、複数医院への通院の身体的負担、煩雑な管理による精神的負担が軽減されるだけでなく、データに基づく高品質なオンライン診療を受診できることが期待されます。また、医療従事者にとっては、産科セミオープンシステムの医療効率化による医師の働き方改革への対応や地域医療連携による地域医療間格差の是正への貢献が期待されます。

 

<関連する取り組み>
ICT・IoT利活用により持続可能な医療システムの実現を目指すコンソーシアムを設立(2021年10月27日報道発表)

 

 

 

(注1)PHR:Personal Health Record 体重、体温、血圧などをはじめ、運動や喫煙・飲酒習慣など個人で管理された健康に関する記録情報のこと。
(注2)EHR:Electronic Health Record 検査結果、診療情報、処方の内容など病院で管理された健康・医療に関する記録情報のこと。
(注3)精密医療(プレシジョンメディシン):それぞれの患者さんに合った最適な治療を行う医療のこと。
(注4)本研究はAMED(国立研究開発法人日本医療研究開発機構)、「循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業」に係る公募(2次公募)採択研究開発課題名「ダイナミック・コンセントを実装する先進的糖尿病デジタルデバイスの開発研究」(研究代表者:埼玉医科大学、研究分担者:KDDI総合研究所)の支援を受けて実施。研究課題番号「JP21ek0210162」
令和3年度 「循環器疾患・糖尿病等生活習慣病対策実用化研究事業」(2次公募)の採択課題について
(注5)ダイナミック・コンセント
個人情報の利用に際して、本人の同意内容を柔軟・動的(ダイナミック)に変更可能な同意取得手法のこと。データ利用者にとっては将来の研究参加や他の診療などあらゆるシーンでデータを活用でき、データ提供者にとってはいつでも同意撤回が可能となる。
(注6)日本内分泌学会HPより
妊娠糖尿病
(注7)HL7-FHIR
HL7は、機器間での医療⽂書情報のデータ連携を標準化するための国際規格で、HL7-FHIRはその中のWeb通信に関する規格となる。これまでV2(テキスト)、V3(XML)、CDA(V3の進化版)と改訂を重ねてきた。
(注8)Smart Health Cards
ワクチン接種履歴や検査結果などの医療情報をデジタル記録するための、オープンで相互運用可能なデータ規格で、ユーザーが自らのデータを管理できること、スマホで安全にデータを保管できること、プライバシーが大切な医療情報を扱う上での国際標準(HL7-FHIR)を採択していることなどの特徴がある。処方箋など他の医療データへの汎用も可能。
(注9)PPM:Privacy Preference Manager
ユーザー(データ主体)が利用目的ごとに自身のパーソナルデータの提供可否を判断・登録し、これら登録内容(提供可否判定テーブル)に従い、情報システムにおけるパーソナルデータの流通制御を行う仕組みをPPMと称する。PPMはKDDI総合研究所が提案し、IoTプラットフォームの国際標準化団体oneM2Mで標準化されている。なお、本研究では、総務省「 IoT/BD/AI 情報通信プラットフォーム」社会実装推進事業 課題Ⅲ IoT デバイス/プラットフォーム等の連携技術の確立と相互接続検証に向けた研究開発(2017-2019年度)にて開発したAPPM(Advanced PPM)を採用する予定。

 

※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。