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世界初、フォトニック結晶レーザーを用いた高出力自由空間光通信の実証に成功

~Beyond 5G/6G時代における宇宙空間での通信利用を目指して~

2022年9月22日
株式会社KDDI総合研究所
国立大学法人京都大学

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)と国立大学法人京都大学大学院工学研究科の野田 進 教授、森田遼平 同特定研究員、井上卓也 同助教らの研究グループ(以下「京都大学」)は、フォトニック結晶レーザー(注1)を用いた高出力自由空間光通信(注2)の実証に世界で初めて成功しました(注3)。現在、高出力自由空間光通信を行うためには、ファイバーアンプなどを用いた大型の送信機が必要となるのに対して、フォトニック結晶レーザーは単一の半導体素子のみで同程度の光パワーの出力を実現でき、送信機のシステムを大幅に小型化・簡素化することが可能となります。今後、さらなる研究開発を進め、Beyond 5G/6G時代における宇宙空間での利用を目指します。

 

 

 

図1 従来の送信機とフォトニック結晶レーザーを用いた送信機のイメージ

 

 

【背景】
一般に、光をより遠くに送るためには、高いパワーの光を発射する必要がありますが、高いパワーを有する光を発射するためには、ファイバーアンプなど、大型の装置を用いて光を増幅することが必要です。また、高いパワーに加えて、ビームの拡がり角を小さくすることも重要です。上述のようなファイバーアンプ等を経て出射された通常のレーザー光は、小さな面積の領域から発射されますが、発光領域の大きさとビームの拡がり角には反比例の関係があるため、そのまま空間伝搬させるとビームが極めて大きく(>10°)拡がっていきます。このビーム拡がりを抑えるためには、複雑な光学系が必要となりますが、このような外部光学系も装置を複雑にし、その結果装置の大型化を招きます。そこで、高いパワーで、狭い拡がり角をもち、レンズフリーで活用可能なフォトニック結晶レーザーに着目し、自由空間光通信への利用に向けた研究開発を進めてきました。

 

【今回の成果】
この度、KDDI総合研究所と京都大学はフォトニック結晶レーザーを用いた自由空間光通信の実証に成功しました。これまでフォトニック結晶レーザーを用いた、レーザー加工や光の測距(LiDAR)(注4)は実証されてきましたが、通信での実証は世界で初めてです。
今回用いたフォトニック結晶レーザーは、単一の半導体素子でありながら極めて高い出力光(≥W)を出力することが出来るため、従来のファイバーアンプなどの大型装置を用いる必要がありません。さらに通常の半導体レーザーと比較して、極めて大きな領域で単一モードで発光するため、ビームの拡がり角が0.1°程度以下と極めて小さくなり、外部レンズ系を用いることなく、そのまま空間に発射することが出来ます。これら2つの特徴によって、送信機構成を大幅に簡素化することができます。
実験では64QAM変調(注5)された、864MHzの帯域を有するOFDM(注6)光信号を、1ワット級の光パワーでフォトニック結晶レーザーから発射させ、1.1メートルの空間伝送に成功しました。この結果は、フォトニック結晶レーザーを用いた毎秒5ギガビット相当の自由空間光通信の実現の可能性を示すものです。

 

 

 

図2 実証実験の様子

 

 

本結果は光通信分野では世界最大規模である国際学術会議ECOC2022(The European Conference on Optical Communication)(2022年9月18日~22日開催)において、最新の成果が厳選されるポストデッドライン論文(注7)として発表予定です。

 

【今後】
フォトニック結晶レーザーを用いた、より高出力で高速な自由空間光通信を実現し、Beyond 5G/6G時代における宇宙空間での通信を支える光伝送技術の研究開発を推進していきます。

 

 

■ KDDI総合研究所の取り組み
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーとそれらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

■ 京都大学の取り組み
京都大学のフォトニック結晶レーザー開発拠点では、スマートモビリティ・スマート加工・光通信等の多岐に亘る分野において、フォトニック結晶レーザーの社会実装を進め、将来の超スマート社会の実現に貢献していきます。

 

 

 

(注1)フォトニック結晶レーザー
フォトニック結晶と呼ばれる人工的な光ナノ構造を2次元状に配置した、2次元フォトニック結晶を有する半導体レーザー。通常の半導体レーザーと比較して、大面積で単一モード発振するため、高出力で狭い拡がり角のビームが得られる。

 

(注2)自由空間光通信
空気・宇宙空間などの自由空間を伝搬する光を利用して、通信のためのデータを無線送信する光通信技術。

 

(注3)フォトニック結晶レーザーを用いた高出力自由空間光通信の実証に成功したことが世界初。2022年9月22日 KDDI総合研究所調べ。

 

(注4)光の測距(LiDAR)
Light Detection and Rangingの略で、レーザー光を用いたリモートセンシング技術の一つ。近年、ロボットの自動走行や自動車の自動運転に不可欠な技術の一つとして、注目を集めている。

 

(注5)64QAM変調
位相が90°ずれた2つの正弦波(サイン波とコサイン波)に対し、それぞれの振幅を23=8通りに変更・調整することで、複数の情報を載せて(=多重化して)信号を伝達する変調方式を意味し、1周期あたり(232=26=64通り(=6ビット)の情報を載せることが出来るもの。今回、それぞれの波の変調周波数が864MHzであるので、1秒当たりに伝送可能な総情報量は、864MHz x 6ビット= 5.2ギガビットとなる。この周波数が高いほど、多くの情報を送ることが出来る。

 

(注6)OFDM
Orthogonal Frequency Division Multiplexing(直交周波数分割多重方式)の略で、(注5)で述べた多重化を行う際に、異なる周波数の正弦波を複数重ねて変調を行う方式のこと。

 

(注7)ポストデッドライン論文
一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文。会議期間中に論文選考が行われ、高い評価を受けた研究成果のみ報告の機会を得ることができる。

 

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