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光ファイバに入力した光信号成分を9倍に向上させる伝送方式を発明

~Beyond 5G/6G時代のレジリエントな光ファイバ通信網実現に向けて~

2021年7月26日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、以下「KDDI総合研究所」)は、光ファイバ中で生じる四光波混合現象(注1)を利用して、光ファイバに入力した光信号成分(SN比:光信号対雑音比)を、伝送後に9倍向上させる新たな伝送方式(以下「本方式」)を発明し、その実証に成功しました。現在の伝送方式では、伝送後のSN比は決して大きくなることはなく、伝送前のSN比と同じか、信号劣化によりそれ以下となってしまいます。しかし本方式は、伝送後にSN比を大きく改善することができ、従来の伝送方式と比べて約3倍伝送容量を大きくする(例えば、QPSK信号から64QAM信号(注2)へ)ことができる画期的な発明です。本方式は、Beyond 5G/6Gネットワークを支える光ファイバ通信の伝送容量拡大に向けた基礎技術として今後の活用が期待されます。

 

 

 

図1 新たな伝送方式の概要

 

 

【背景】
Beyond 5G/6G時代には、現在よりもはるかに膨大なデータがネットワークを流れます。そのため、ネットワークを支える光ファイバ通信網は、データを収容する能力(伝送容量と伝送距離)を十分に拡大することが将来に渡って求められます。これまでは、一つの光信号に、よりたくさんの情報を重畳することで光ファイバ通信網の能力を高めてきました。しかし、その方法では重畳した情報量分だけ光信号成分を拡大する必要があり、また十分に大きくできない場合は、伝送する距離を短くする必要がありました。そのため光ファイバ伝送後において、光信号成分を飛躍的に拡大できる伝送方式の発明が求められていました。

 

【今回の成果】
この度KDDI総合研究所は、非線形光学効果(四光波混合)を応用することにより、光ファイバに入力した光信号成分を、伝送後に9倍向上させる伝送方式を発明し、実際にBeyond 5G/6G時代に利用が想定される光信号を用いて約9倍の光信号成分の向上を確認しました。発明した伝送方式の原理と実証結果を簡単に示します。

 

 

 

図2 光信号対雑音比(SN比)が9倍に向上する原理

 

 

・【方式・原理】信号光1(周波数f1)と、信号光1の複素共役(注3)である信号光2(周波数f2)を光ファイバに入れて伝送すると、f1の2倍からf2を引いた周波数と、f2の2倍からf1を引いた周波数に、信号光の成分(SN比)が9倍大きくなった光が出現します。
・【実証結果】光ファイバの波長分散がゼロとなる周波数を、ちょうどf1とf2の間になる条件に設定し、信号光としてラジオのFM信号のような角度変調を施すことにより、光信号成分が約9倍大きくなった光(相対的に、雑音が信号に対して1/9となった光)の出現を確認しました。

 

本結果は光通信分野では世界最大規模である国際学術会議OFC2021(The Optical Networking and Communication Conference & Exposition)(2021年6月6日~11日開催)において、最新の成果が厳選されるポストデッドライン論文に採択されました(注4)。

 

【今後】
Beyond 5G/6G時代を見据え、データ通信需要の増加に対応していくため、さらなる大容量光伝送技術の研究開発を推進していきます。

 

■ KDDI総合研究所の取り組み
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーとそれらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)非線形光学効果
物質に光を入射した際、入射光の周波数とは異なる周波数の光が発生する現象の総称。非線形光学効果のうち、本成果では、2つの光波から周波数の異なる周波数が2つ発生し、計4光波となる「四光波混合(Four wave mixing, FWM)」を活用。

 

(注2)QPSK信号、64QAM信号
四位相偏移(QPSK)信号:1シンボル当り2ビットの情報を送ることができる変調方式。64値直交振幅変調(64QAM)信号:1シンボル当り6ビットの情報を送ることができる変調方式。

 

(注3)複素共役
光の波の振動するタイミングを位相と呼ぶ。この位相に情報を載せる方式が位相変調である。ある位相変調信号に対して、その位相の増加と減少の様子が反転した信号を、複素共役信号と呼ぶ。

 

(注4)ポストデッドライン論文
一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文。会議期間中に論文選考が行われ、高い評価を受けた研究成果のみ報告の機会を得ることができる。
論文情報:S. Ishimura et al., “Enabling Technology for 9.5-dB SNR Enhancement Utilizing Four-Wave Mixing Between a Conjugate Pair of Angle Modulation for Analog Radio-over-Fiber Signals,” OFC2021, F3C.3,(2021).

 

 

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