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世界初、リアルタイムMIMO信号処理方式による結合型マルチコア光ファイバ7,200km光伝送実験に成功

~空間分割多重光信号伝送の早期実用化に期待~

2021年6月24日
株式会社KDDI総合研究所
国立大学法人大阪大学

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、以下「KDDI総合研究所」)と国立大学法人大阪大学(本部:大阪府吹田市、以下「大阪大学」)は、MIMO信号処理方式(注1)を用いたリアルタイムでの光信号処理技術を開発し、既存光ファイバと同じ外径を有する標準外径結合型4コア光ファイバ(注2)で、伝送距離がこれまでの120倍となる7,200kmリアルタイム光伝送実験に世界で初めて成功(注3)しました。

 

 

 

図1 リアルタイムMIMO信号処理方式による結合型マルチコア光ファイバ光伝送実験の結果

 

 

【背景】
Beyond 5G/6G時代には、現在よりもはるかに膨大で多様なデータがネットワークを流れることが想定され、そのネットワークを支える光ファイバ通信の収容能力(伝送容量と伝送距離)を十分に拡大することが不可欠です。従来の光ファイバ(単一コア・単一モード光ファイバ)通信では、複数の波長を多重することにより伝送容量を拡大してきましたが、一つのコアに入力できる光パワーの限界や光ファイバ中での信号間の干渉などの問題により、伝送容量の限界を迎えつつあります。その限界を打破する技術として、光ファイバの中に複数のコアを設けるマルチコア光ファイバといった「空間分割多重」技術の研究開発が世界的に取り組まれています。
これまで、結合型マルチコア光ファイバ光伝送の研究開発では、それぞれのコアから取り出した光信号を電気信号に変換して測定器で一度ストレージに蓄積した後、別途用意したコンピュータ等を用いて蓄積したデータを読み出し、CPU上で時間をかけてMIMO信号処理を行うオフライン信号処理方式による伝送特性の評価が行われていました。しかし、オフライン信号処理方式では、それぞれのコアから取り出した光信号の極めて一部の時間だけしか元のデータへ戻すことができないために、実用化に向けてリアルタイム信号処理の実現が求められていました。

 

【今回の成果】
この度、KDDI総合研究所と大阪大学は、NECプラットフォームズ株式会社との連携によりリアルタイムMIMO信号処理方式を開発し、波長多重DP-QPSK信号(注4)を用いて結合型4コア光ファイバ7,200kmのリアルタイム光伝送実験(注5)に世界で初めて成功し、結合型マルチコア光ファイバを用いた光伝送距離の世界記録を120倍更新しました。

 

 

 

図2 オフライン信号処理とリアルタイム信号処理

 

 

今回開発したリアルタイムMIMO信号処理方式は、これまでCPU上で行っていたMIMO信号処理アルゴリズムを、光トランシーバに接続した複数の集積回路(FPGA(注7))上に並列演算として実装しました。更に長い距離の光ファイバ伝送を実現するために用いられる光ファイバ周回伝送において必要となる、光信号の周回周期と MIMO信号処理の時間同期を高精度に行い、7,200 kmに及ぶ長距離伝送においても、リアルタイムにデータ取得が可能になりました。

 

 

 

図3 リアルタイムMIMO信号処理による結合型4コア光ファイバ7,200 km光伝送実験

 

 

今後、空間分割多重光信号伝送の実用化に向けては、安定な運用のためのさまざまな技術開発が求められますが、今回の成果を活用することにより、これらの開発が加速されることが期待されます。今後も、将来の大容量のデータ通信需要に対応していくため光ファイバ伝送基盤技術の研究開発を推進していきます。

 

今回の成果は2021年6月6日~11日に開催された光通信技術に関する世界最大の国際会議OFC2021(Optical Fiber Communication Conference & Exposition)のポストデッドライン論文(注8)として報告されました。なお、本研究開発の一部は、総務省の「ICT重点技術の研究開発プロジェクト 新たな社会インフラを担う革新的光ネットワーク技術の研究開発(JPMI00316)」によって実施した成果です。

 

■ KDDI総合研究所の取り組み
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。KDDIとKDDI総合研究所は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーとそれらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)MIMO(Multiple-Input Multiple-Output)信号処理
結合型マルチコア光ファイバでは、複数のコアを伝搬するそれぞれの光信号が他のコアに漏れ出すため、受信機側で漏れ出した信号を除去する信号処理技術。

 

(注2)標準外径結合型4コア光ファイバ
マルチコア光ファイバは、1本の光ファイバに複数のコアを設けて異なる光信号を多重伝送可能な光ファイバ。コア間の干渉の有無に応じて、結合型と非結合型に分類される。結合型マルチコア光ファイバはコアを密に配置できるため既存の光ファイバと同じ外径にできるが、コア間の干渉が生じ、各コアを独立した伝送路として取り扱うには受信側でMIMO信号処理が必要。今回使用した4コア光ファイバは、既存光ファイバと同じ外径(125μm)であるため、既存設備を活用した光ファイバのケーブル化が可能であり、早期実用化が期待される。

 

(注3)リアルタイムMIMO信号処理方式による結合型マルチコア光ファイバ7,200km光伝送実験に成功が世界初。(2021年6月24日時点 KDDI総合研究所調べ)

 

(注4)DP-QPSK変調技術:偏波多重4位相偏移変調方式(Dual Polarization Quadrature Phase Shift Keying)
直交する2つの偏波と4つの光位相(0°、90°、180°、270°)を用いて1シンボルに合計4ビットの情報を割り当てる変調技術。

 

(注5)7,200kmのリアルタイム光伝送実験
今回の実験では、シンボル速度2.048ギガの信号を偏波多重5サブキャリア多重QPSK変調(毎秒32.64ギガビット)し、この信号光を200GHzの帯域幅に16波長多重した。その波長多重信号を4つの光の通り道(結合型4コア光ファイバ)を使って空間多重して伝送を行い、誤り訂正符号(25.5%オーバヘッドの符号)を想定することで、総伝送容量は毎秒2.088テラビットを実現。1テラは1兆(10の12乗)。1テラ(T)ビット/秒=1,000ギガ(G)

 

(注6)ASIC(Application Specific Integrated Circuit)
特定の用途向けに設計、製造される集積回路の総称。

 

(注7)FPGA(Field Programmable Gate Array)
集積回路の一種であり、内部の回路構成を自由にプログラム可能。

 

(注8)ポストデッドライン論文
一般論文投稿締め切り後(ポストデッドライン)に受け付けられる論文。会議期間中に論文選考が行われ、高い評価を受けた研究成果のみ報告の機会を得ることができる。

 

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