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世界初 電波資源を有効活用する新たな周波数割り当て方式の開発と量子コンピューティング技術を適用した実証に成功

~1000兆の60乗通りの組み合わせから、5G事業者のニーズにあった周波数割り当てパターンを34秒で算出~

2021年3月17日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、同一の周波数帯を複数の5G事業者で共有する場合、各事業者へ速やかにより使い勝手の良い周波数の割り当てを実現するダイナミックな周波数割り当て(注1)方式を開発しました。また、開発した方式に量子コンピューティング技術(注2)を適用することで、より高速に割り当てパターンの算出ができることを世界で初めて実証しました(注3)。この高速な割り当て技術により、周波数管理者は、5G事業者へ共用する周波数を需要に応じて速やかに配分することが可能となります。
※今回の研究開発は、総務省「異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発」(JPJ000254)を受託し、実施したものです。

 

【背景】
高精細な映像配信や音楽のストリーミングサービスなどの普及に伴い、移動通信システムのトラフィックは年々増加しており、2020年3月の日本国内での5Gサービス提供開始後も高速大容量通信に関する需要は更に高まっています。また、今後はローカル5Gの普及に伴い、多くの事業者が一時的に同一周波数帯を同じ地域で共用することが想定され、大容量トラフィックの増加や、複数の事業者間で周波数の共用に対応するため、ダイナミックに周波数を割り当てる技術が期待されています。図1は、今回開発した周波数割り当て方式の活用イメージです。共用する周波数を利用する事業者の利用予定申請を集約した情報を基に、周波数を各基地局へ細かな時間単位で割り当てることで、効率的な周波数資源の利用が可能となります。しかし、基地局間での干渉を考慮しないで割り当てると、通信ができないエリアが広く生じる場合があります。また、時間ごとに割り当てられた周波数が異なると、都度周波数の切り替えによる通信断が発生し、使い勝手がよくありません。ダイナミックな周波数割り当てでは、様々な種類の事業者ニーズに沿った割り当て方式が必要となります。

 

 

 

図1.共用する周波数割り当て方式の活用イメージ

 

 

一方、ムーアの法則(注4)の限界から、現在のコンピュータの代替として量子コンピューティング技術の活用が期待されています。量子コンピューティング技術の一つである量子アニーリングは、組合せ最適化問題に特化して高速処理を可能とする技術です。組合せ最適化問題は、複数の要素の組合せから適切な解を探索する問題で、要素数が増加することで、解の候補が爆発的に増加し、現代のコンピュータでは現実時間で解くことが困難となります。近年、量子アニーリングを実装したマシンや量子アニーリングに着想を得た組合せ最適化問題専用のマシンを総称してイジングマシンと呼び、開発や活用が進んでいます。

 

【今回の成果】
KDDI総合研究所は、5G事業者にとって、より使い勝手の良い周波数割り当てを実現するため、「事業者基地局の需要帯域と同じ帯域が利用できる(需要応答)」、「分割せず連続したチャネルが利用できる(周波数軸の連続性)」、「同じチャネルが使い続けられる(時間軸の連続性)」、「他の基地局と干渉量が抑えられる(相互干渉量)」という4つの指標を同時に高める割り当て方式を開発しました。
しかし、最適な割当パターンを見つけるには、8基地局へ4チャネルを2タイムスロット分割り当てる計算でも、2の64乗(≒1800京)通りの候補が存在し、総当たり方式では1万年以上(注5)かかります。そこで、開発した周波数割り当て方式の数理モデルを、量子アニーリングへ適用可能なイジングモデル(注6)に変換し、イジングモデルをGPUで高速に処理可能なイジングマシンである日立製作所のMomentum Annealing(モメンタムアニーリング)で実行しました。図2は、周波数割り当て方式をイジングマシンで実行する流れを表した図です。KDDI総合研究所は、イジングマシンを利用するために、事業者ごとの需要に対して周波数を割り当てる基地局と時間を量子ビットと見立て、周波数割り当て方式における4つの指標などを表現するイジングモデルを開発しました。その結果、8基地局へ4チャネルを2タイムスロット分割り当てる問題において、既存手法(注7)と比べて4つの指標を平均2倍改善する解を72マイクロ秒(既存手法の約2000分の1)で算出できることを確認しました。更に、2の3000乗(≒1000兆の60乗)通りの候補が存在する100基地局へ15チャネルを2タイムスロット分割り当てる問題において、既存手法と比べ、4つの指標を平均1.3倍改善する解を約34秒(既存手法の約100分の1)で算出することに成功しました。
4つの評価指標を同時に高めるダイナミックな周波数割り当て方式を開発し、開発した方式に量子コンピューティング技術を活用した実証試験は世界初となります。これにより、5G利用者の状況に応じて、速やかに5G事業者へ共用周波数を割り当てることが可能となり、5G端末上のアプリケーションをより快適に利用できることとなることが期待されます。

 

 

 

図2.イジングマシンを活用した周波数割り当て方式の算出イメージ

 

 

【今後の展望】
KDDI総合研究所は、限りある電波資源をより効率よく利用できる情報通信システムの構築に貢献するため、引き続きユーザのニーズに沿った周波数利用の検討を進めるとともに、社会課題の解決に向けて量子技術の応用に関する研究開発を推進していきます。

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、経済発展と社会的課題の解決を両立する持続可能な生活者中心の社会「Society 5.0」の実現を加速する、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定しました。両社は、ネットワーク、プラットフォーム、ビジネスの3レイヤの環境整備を進めると共に、3つのレイヤを支える先端技術となる7つの分野のテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7分野のテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

【補足資料】
(注1)高度な周波数共用を実現するため、様々な無線システムの電波の利用状況を正確に把握することにより、時間や場所毎に電波の空きを速やかに見つけ出し、5G等の新たな無線システムに利用可能すること。
(注2)量子の物理的な現象を利用して高速に計算する技術。
(注3)周波数割り当ての問題に対して量子コンピューティング技術を利用した実証試験の例としては世界初。(2021年3月17日時点、KDDI総合研究所調べ)
(注4)半導体の集積率が18ヶ月で2倍となる経験則的予測。
(注5)総当たり方式で、1秒間に3000万回試行した場合を想定。
(注6)統計物理学の分野で使われる物理モデル。イジングマシンは、このイジングモデルで表現された組合せ最適化問題を解く。
(注7)汎用の最適化問題ソルバー(Gurobi Optimizer)を利用して周波数割り当て技術の数理モデルを解く手法。

 

<関連リンク>
Momentum Annealing(モメンタムアニーリング)、日立CMOSアニーリングマシン

 

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