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世界初 異なる無線システムの信号をリアルタイムで除去する干渉除去技術を開発

~干渉により周波数共用が難しい場所でも5G通信が可能に~

2021年3月4日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)は、5Gのシステムと、5Gなどの移動通信システムとは異なる無線システム(注1)が、近い場所で同じ周波数帯を使用してサービスを提供した場合でも、リアルタイムで干渉を除去し、5G通信を可能とする干渉除去技術を世界で初めて開発しました(注2)。また、開発した干渉除去技術を実装した5G受信機を試作し、屋外での実証実験を通じてその有効性を確認しました。これまで干渉を考慮すると5Gサービスを提供することが難しかった場所でも高速で安定した5Gの通信が可能となり、5Gサービスエリアの拡大や周波数資源の効率的な活用に寄与できることが期待されます。
※今回の研究開発は、総務省「異システム間の周波数共用技術の高度化に関する研究開発」(JPJ000254)を受託し、実施したものです。

 

 

 

図1:同じ周波数帯を使用した異なる無線システムの近傍で5Gを通信した場合の干渉と干渉除去のイメージ図

 

 

【背景】
高精細な映像配信や音楽のストリーミングサービスなどの普及に伴い、移動通信システムのトラフィックは年々増加しており、2020年3月の日本国内での5Gサービス提供開始後も高速大容量通信に関する需要は更に高まっています。しかし、世界的に5G以降で利用が検討されている周波数帯の多くは、日本国内では既に移動通信業務以外に割り当てられており、これらの周波数帯を5Gで利用するためには、周波数割り当ての再編、または既に運用が開始されている異なる無線システムと同じ周波数帯で通信を行う周波数共用の実現が重要となります。
これまで、複数の無線システムが同じ周波数帯を利用するためには、お互いの通信に対して生じるシステム間干渉を抑えるため、利用する時間をずらすか、それぞれのシステムがカバーするエリアを離す必要がありました。この場合、5Gのサービスエリアやサービス時間が限られてしまうという問題がありました。サービスエリアやサービス時間の制約を小さくするには、周波数を共用する際のシステム間干渉が小さくなるようにアレーアンテナ(注3)で形成するビームの方向を調整する、アレー信号処理(注4)などによる干渉抑圧方法が検討されてきましたが、多くのアンテナやビーム形成回路などにより5G受信機の装置規模が大きくなるという問題がありました。さらに、受信信号から干渉となる一方のシステムの信号を取り除く干渉除去についてもコンセプトが示され、これまでシミュレーションなどでの評価が行われてきましたが、実際の信号処理方式を含めた具体的な実現方法は検討されていませんでした。

 

【今回の成果】
このたびKDDI総合研究所は、5Gのシステムと、5Gなどの移動通信システムとは異なる無線システムが、近い場所で同じ周波数帯を使用してサービスを提供した場合でも、リアルタイムで干渉を除去し、5G通信を可能とする干渉除去技術を世界で初めて開発し、屋外での実証実験を通じてその有効性を確認しました。
新たに開発した干渉除去技術では、5G受信信号に異なる無線システムからの信号が干渉として混信している受信信号から、推定した干渉信号を模擬するレプリカ信号を差し引くことで、干渉信号に埋もれていた5Gの本来の信号を際立たせ、受信品質を改善します。その際、5Gと共通の受信機能で受信した信号を、異なる無線システムの信号に変換し、レプリカ信号を生成することで、5G受信機の装置規模が大きくなることを抑えています。
今回の実証実験は、開発した干渉除去技術を実装した5G受信機を試作し、屋外で5GHz帯を使用して実施しました。通常では干渉により波形が乱れ、全く5Gの受信が行えないような異なる無線システムからの干渉が強い状況において、誤りなく信号を受信することに成功しました。

 

 

 

図2:従来の干渉除去技術と今回開発した干渉除去技術

 

 

 

図3:干渉除去技術を適用する前の5Gコンスタレーション(注5)(左)と干渉除去技術を適用した後の5Gコンスタレーション(右)

 

 

【今後の展望】
今回開発した干渉除去技術は、干渉が強い場所で5G受信性能を大幅に向上することが可能であり、本技術を用いることで異なる無線システムがカバーするエリアに近い場所でも5Gのエリアを構築し、高品質に利用することが期待されます。KDDI総合研究所は、同一周波数帯を複数システムで共用する際に5Gサービスエリアを拡大するため、本技術の実用化に向けた取り組みを加速していきます。

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、経済発展と社会的課題の解決を両立する持続可能な生活者中心の社会「Society 5.0」の実現を加速する、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定しました。両社は、ネットワーク、プラットフォーム、ビジネスの3レイヤの環境整備を進めると共に、3つのレイヤを支える先端技術となる7つの分野のテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7分野のテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

 

(注1)移動通信業務以外の通信・放送・センシングなどのシステム。無線通信システム毎に標準規格やメーカの規格で信号の形式等が定められており、仮に同じOFDM信号を使用する場合であっても、OFDM信号のサブキャリア間隔やシンボル長、FFTポイント数などの値は異なるものを利用するのが一般的。
(注2)5Gにとって干渉となる異なる無線システムの信号をリアルタイムで除去する干渉除去技術が世界初。2021年3月4日 KDDI総合研究所調べ。
(注3)送信機、または受信機に複数のアンテナを持つ装置。各アンテナに入力する信号の位相を調整するアレー信号処理により、送信、または受信のために形成するビームの方向などを調整することが出来る。
(注4)送信、または受信のために形成するビームの方向などを調整するために、各アンテナに入力する信号の位相を調整すること。
(注5)例えば16QAMであれば16点のデジタル変調によるデータの信号点を、実軸(I)と虚軸(Q)で示される2次元の複素平面上に示したもの。

 

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