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世界最高容量モバイル無線信号の光ファイバー伝送実験に成功

~次世代移動通信システム「5G」以降のモバイル通信サービスの迅速展開に寄与~

2017年10月19日
株式会社KDDI総合研究所

株式会社KDDI 総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中島康之、以下「KDDI総合研究所」)は、大容量のモバイル無線信号波形をデジタル信号に変換することなく直接光ファイバーで高品質に伝送可能な大容量・長距離化技術を開発し、これまでの記録の2.5倍となる大容量無線信号の長距離光ファイバー伝送実験に成功しました。今回達成したモバイル通信の速度は63Gbpsで、次世代移動通信システム「5G」(以下、5G)で想定される最大通信速度20Gbpsの3倍以上となります。また、開発した技術により、基地局設備の大幅な小型・省電力化が可能となるため、これまで以上にアンテナ数が増大する5G以降において、大容量・高品質なモバイル通信サービスの迅速な展開を支える光ファイバー伝送技術として期待できます。KDDI総合研究所は本成果を、2017年9月21日(中央ヨーロッパ夏時間)に開催されたヨーロッパ光通信国際会議(ECOC2017)でポストデッドライン論文として発表しました。

 

 

 

図1 従来と今回の成果比較

 

 

【背景】
モバイル通信の高速化、大容量化には、高い無線周波数帯の利用が不可欠です。一般に、周波数が高くなるほど、大気伝搬時の減衰が大きく、また電波の直進性も強いため、遠くには届きにくくなります。そのため、今後、大容量無線サービスを展開するため、サービスエリアの狭い多数の基地局(アンテナ)を設置することが予想され、設置制約の少ない小型、省電力の基地局構成が必要になると考えられます。
また、無線通信の大容量化にともない、無線基地局を収容する光アクセス回線の大容量化も必要となります。現在、無線基地局を収容する光アクセス回線には、主にモバイル無線信号の波形をデジタル化して伝送する方式が用いられていますが、5Gでは50%データ圧縮技術を利用しても100 Gbps近い伝送レートが求められ(注1)、経済性を強く求められる光アクセス回線において、広帯域な光デバイスや複雑な伝送技術が必要という問題がでてきます。現在、3GPP(Third Generation Partnership Project)で基地局の機能分割を変更することで、回線容量を削減する検討が行われていますが、基地局間連携動作性能は劣化してしまう懸念があります。これら無線および光アクセス回線の課題を同時に解決し、ユーザーに大容量無線サービスを提供する方法の一つとして、モバイル無線信号の波形をそのまま光ファイバーで伝送するRoF(Radio-over-Fiber)伝送方式が考えられますが、一般に、デジタル伝送に比べて、光伝送に起因する信号劣化を受けやすい性質があります。例えば、帯域の広い無線信号をC-band(注2)の光波長を使ってRoF伝送しようとすると、一部の周波数帯域でパワーフェーディング(注3)の影響を受け、伝送容量と伝送距離を同時に拡大することができないという問題がありました。

 

 

 

図2 従来と将来の無線基地局収容構成

 

 

【今回の成果】
KDDI総合研究所は、既設光ファイバーで伝送可能なモバイル無線信号の容量と距離を拡大する技術を開発しました。RoF伝送方式は、シンプルな強度変調-直接検波(IM-DD)(注4)構成でありながら、無線信号の高い周波数利用効率での光伝送が可能です。そのため、光送受信機に必要な帯域を削減でき、従来の光ファイバーや光部品の活用が期待できます。また、伝送後のデジタル信号復調処理が不要となり、アンテナサイト設置機器の小型化・省電力化が可能となることから、迅速なサービス展開にも期待ができます。
従来は無線信号を光送信器で光の強度のみを変調していましたが、今回考案した新たな光送信器構成では、パワーフェーディングの影響を受ける周波数帯の信号に対して光の強度ではなく位相(注5)を変調し、強度変調された光信号と位相変調された光信号を偏波多重しています。これにより、光ファイバー伝送後は一般的なIM-DD方式で適用されている受信構成で、全ての周波数帯の無線信号を受信することができます(注6)。伝送実験では、20kmのシングルモード光ファイバーを用い、64値直交振幅変調(64QAM)、チャネル帯域幅1.2GHzの直交周波数分割多重(OFDM)信号を周波数軸上に等間隔に並べ、21GHzまで拡がる広帯域無線信号を1550nmの光波長1波で一括伝送しました。従来の方式では半分以下のチャネルしか伝送できませんでしたが、これまでの記録の2.5倍となる大容量無線信号のRoF伝送実験に成功しました。

 

 

 

図3 従来と提案方式による光送信構成

 

 

【今後の展望】
5G以降の無線通信システムを支える光ファイバー伝送技術として実用化に向け研究開発を進めていきます。

 

 

(注1)従来のデジタル伝送方式では、光アクセス回線に無線通信の約16倍の伝送レートが必要。無線の最大通信速度が10~20Gbpsと想定される5Gでは、データ圧縮技術を用いない場合160~320Gbps、50%データ圧縮技術を適用しても80Gbps以上の伝送レートが必要。
(注2)1530-1565nmの光波長帯、nm(ナノメートル)は10-9m。
(注3)光ファイバー伝送における波長分散の影響で、光変調時に発生する両サイドバンド間の位相関係が変化して、光伝送後に無線信号のパワーが減少してしまう現象。
(注4)電気信号を光の強度信号として光ファイバー伝送し、光電気変換素子を用いて再度電気信号を取り出す方式。
(注5)振幅(強度)とともに波の状態を表す要素。
(注6)位相変調では、光変調時に発生する1次の両サイドバンド間の位相が逆となり、そのまま直接検波した場合には信号検出ができないが、波長分散の影響でサイドバンド間の位相関係が変化すると、信号検出が可能となることを利用。

 

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