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世界初!人工知能を活用したネットワーク自動運用システムの実証に成功

~5G時代に向けた自動運用システムの実証成果をMobile World Congress 2016に出展~

2016年2月22日
株式会社KDDI研究所

株式会社KDDI研究所は、ウインドリバー株式会社、日本ヒューレット・パッカード株式会社、ブロケード・コミュニケーションズ・システムズ株式会社と協力して、ネットワーク仮想化時代に向けて、人工知能*1を活用した自動運用システムを開発し、世界で初めて人工知能による故障予測に基づきネットワークを自動運用する実証(以下、本実証)に成功しました。

本実証では、ソフトウエアバグなどの異常の兆候を9割以上の精度で事前に検知し、従来の約5倍の速度で仮想化された機能を別拠点などの安全な場所へ移行することに成功しています。

なお、本実証の成果の一部は、本日からスペインのバルセロナで開催される「Mobile World Congress (MWC) 2016」(Intel社ブース内、Hall 3、Booth# 3D30)にて展示します。

 

 

KDDI研究所は、ネットワーク仮想化*2への取り組みを通じて、IoT/M2M*3など多様化するサービスへの柔軟な対応と、より複雑化する運用の簡素化を図り、高品質な第5世代移動通信システム(5G)ネットワークの実現を目指します。また、NFV*4/SDN*5運用システム技術はTMForum*6やETSI*7などの標準化団体を通じて、共通仮想化基盤における人工知能活用はOPNFV*8やOpenStack*9などのオープン実装団体を通じて、ネットワーク仮想化によるインフラ基盤の高度化に貢献していきます。

 

(背景)

従来の通信設備は、ルータや交換機などハードウエアと機能が一体化した専用装置の形が取られてきました。近年では、汎用サーバが高性能化して通信設備のハードウエアとして使われ始め、さらには汎用サーバで広く用いられている仮想化技術を適用した柔軟性にも期待されています。特に、SDNやNFVといったネットワーク仮想化技術は、重要な設備の輻輳時、他設備の資源(処理能力)を迅速に融通して深刻な事態を回避するといった効果が期待されています。また、5Gに向けては、IoT/M2M、医療サービスなど多様化する要件を満足するために、ネットワーク仮想化による柔軟性の実現が不可欠となります。

通信設備を対象とした仮想化技術は途上段階にあり、特に障害対応作業が複雑化する懸念がありました。そこで我々は昨年5月、共通的な仮想化基盤に対してSDN/NFVオーケストレータ*10と監視システムとを連携させ、発生した障害を自動的に復旧する運用自動化を実証しました。当社はこの成果を元に、TMForumや ETSIといった国際標準化の検討を推進し、必要なインタフェースなどの標準化も進み始めました。

一方、汎用サーバやオープンソース・ソフトなどの活用に伴い、通常の監視や診断では予測が困難なハードウエアの劣化やソフトウエアのバグなどが、運用自動化の盲点となりサービスに甚大な影響を引き起こす可能性が指摘されています。しかし、その様に極めて稀に発生する事象を如何に捉え、如何に適切に対応するか、技術が十分確立されておらず標準や実装も未整備な状況です。

 

今回の実証実験

(1)概要

共通的なネットワーク仮想化基盤に、ハードウエアやソフトウエアの深刻な障害の兆候を検知する人工知能を埋め込み、効率的に学習、状況判断すると共に、予兆結果に基づいてSDN/NFVオーケストレータが最適な復旧プランを導出し、仮想化された機能を瞬時に移行させる自動運用システムの実証に世界で初めて成功しました。

 

(2)成果

今回の成果は、設備警報などで検知可能な異常だけでなく、稀ながらも一旦発生すると深刻な事態を引き起こす恐れのある事象にも対応可能となり、ネットワーク仮想化時代の運用高度化の実現に向けた大きな一歩となります。

実証実験の概要、ならびに、技術的ポイントは、以下の3つです。


①共通仮想化基盤に分散的に埋め込まれた人工知能が、汎用サーバや仮想化された機能など、ハードウエアとソフトウエアの両面で異常な兆候が無いか、学習、検知します。この結果、そのまま放置すると深刻な事態に繋がる恐れのある兆候を捉えます。なお、精度の高い学習と分析には膨大な統計量の処理が必要になるため、人工知能を分散させるというアプローチを取っています。


②上記①で捉えた兆候などの情報を、統合管理制御システムに集約します。その情報に基づき、SDN/NFVオーケストレータは、最適な復旧プランを導出します。例えば、ソフトウエア異常(例:バグに起因するメモリ漏洩)を放置すると突然機能が停止する恐れがあり、停止する前に代替機能でサービスを継続させます。また、ハードウエア異常(例:冷却ファン劣化によるサーバの放熱異常)の影響を考慮して、該当する仮想化された機能を別拠点などへ移行させます。


③上記②の復旧プランに基づき、実際の復旧作業を自動的に進める中で、特にハードウエアなどの設備に起因した異常に対しては、影響を受けるサービスの範囲が大きくなります。その様な場合、該当する仮想化された機能の数も非常に大きくなり、それらを如何にサービスに影響を与えずに移行させるかが課題となります。そこで、高速移行技術で影響を最小限に留めながらリスクを回避します。

 

(3)各社の役割

本実証実験は、以下の役割で取り組みました。

会社 担当
KDDI研究所 人工知能による監視システム
SDN/NFVオーケストレータ
仮想化された機能
ウインドリバー

キャリアグレード仮想化基盤ソフトウエア、
高速移行技術

日本ヒューレット・パッカード

仮想化された機能
ブロケード・コミュニケーションズ・システムズ 仮想化された機能(Brocade vRouter製品)

http://www.brocade.com/ja/products-services/software-networking/network-functions-virtualization/5400-vrouter.html

http://www.brocade.com/ja/products-services/software-networking/network-functions-virtualization/5600-vrouter.html

 

*1 人工知能<用語 解説>

コンピュータなどの機械が状況を判断したり、学習したり、推論するなどにより、人間に代わって目的とする答えを導き出す技術です。

*2 仮想化技術

サーバやストレージといった計算機資源(処理能力や容量)を、用途に応じて切り出したり、切り出された資源同士を柔軟に組み合わせて必要とされる性能を満たしたりする技術です。なお、仮想化の対象を、ネットワーク資源(帯域各種ネットワークの機能)に適用した技術を、特に、ネットワーク仮想化技術といいます。

*3 IoT/M2M

Internet of Things/Machine to Machineの略です。個別のセンサーや自動車など、「モノ」同士をネットワークで接続するなどして、遠隔から制御したり状態を確認したりする技術です。

*4 SDN

Software Defined Networkの略です。ネットワーク資源をソフトウエアにより集中制御することで、構成変更や設定を柔軟かつ迅速に実現する技術です。

*5 NFV

Network Function Virtualizationの略です。仮想化技術の一つで、特にルータ機能、ファイアウォール機能などネットワークを構成する各種機能を仮想化する技術です。

*6 TMForum

ネットワーク運用管理、ネットワークを介するビジネスなどに関わる標準の枠組みやインタフェースなどを検討している国際標準化団体です。

*7 ETSI

The European Telecommunications Standards Instituteの略です。欧州を母体としたICT全般に関わる国際標準化団体です。

*8 OPNFV

Open Platform for NFVの略です。NFV技術に関連するオープンソース団体とも連携しながら、キャリアグレードの実装を進めるオープンソース団体です。

*9 OpenStack

サーバやクラウド環境における管理制御ツールとして、幅広く普及しているオープンソース団体、ソフトウエア。

*10 SDN/NFVオーケストレータ

ネットワーク機能やサーバ資源などを一元的に制御して仮想化をつかさどる管理システムです。これにより、要件に応じた機能や資源の配置や接続が実現されます。

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