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月探査に向けた光通信技術の地上検証を開始
~衛星間の追尾・捕捉・光行差補正技術と月面環境に耐えうる光アンテナ技術を検証~
2026年2月18日
株式会社KDDI総合研究所
株式会社アークエッジ・スペース
株式会社テックラボ
株式会社トプコン
三菱ケミカル株式会社
株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:小西 聡、以下 KDDI総合研究所)、株式会社アークエッジ・スペース(本社:東京都江東区、代表取締役:福代 孝良、以下 アークエッジ・スペース)、株式会社テックラボ(本社:東京都多摩市、CEO:尾崎 毅志、以下 テックラボ)、株式会社トプコン(本社:東京都板橋区、代表取締役社長CEO:江藤 隆志、以下 トプコン)、三菱ケミカル株式会社(本社:東京都千代田区、代表取締役社長:筑本 学、以下 三菱ケミカル)の5社は、KDDI株式会社(本社:東京都港区、代表取締役社長:松田 浩路、以下 KDDI)と共に、KDDIが国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(以下 JAXA)と契約締結した「月探査のための遠距離捕捉追尾サブシステム地上検証モデル試作評価」の研究開発(以下 本研究開発)(注1)の一環として、2026年3月から月と地球間を模擬した条件下での技術検証(以下 本検証)を開始します。
本検証は月と地球間の光通信で必須となる「通信を確立し継続的に維持する追尾技術」「通信相手を捉える捕捉技術」「高速に動く衛星間の速度差による送受信光の角度ずれを補正する光行差補正技術」と、「月面の過酷な環境での通信に必要な広い温度範囲に対応する光アンテナの設計・製造技術」の確立を目的としています。5社は今後も、月と地球間の高速大容量通信技術の確立に貢献していきます。

<低軌道-静止軌道間と月と地球間の光通信の比較>
詳細は別紙をご参照ください。
〈別紙〉
本研究開発は、「内閣府宇宙開発利用加速化戦略プログラム(スターダストプログラム)」のうち、文部科学省が所管する「月面活動に向けた測位・通信技術開発(実施機関は文部科学省から受託を受けたJAXA)」の一部をなすものであり、その成果はJAXAに納入され、将来の月探査に活用される見込みです。
■ 背景
・米国のアルテミス計画をはじめ、世界各国で月面探査・開発が計画されています。日本でもJAXAが2040年代に人が月面に常時滞在する宇宙探査シナリオ案を策定しており、今後の月面活動を支えるためには、月と地球の高速・大容量通信の確立が不可欠です。JAXAのシナリオ案では、地球周回静止衛星と月周回中継衛星と月面間の通信回線に光通信を適用する案が示されています。
・月と地球の光通信を実現するために必要な光通信機は、光信号を送受信する光アンテナと、送信器と受信器から出入りする光信号を光アンテナに入出力する内部光学系から構成されます。内部光学系には捕捉・追尾・光行差補正という3つの要素技術があり、中でも追尾は人工衛星の揺れにより常に揺れ動く受信光を受信器に入れ続ける必要があり、衛星間光通信を実現する上で特に実現が難しい技術のひとつです。

<光通信機の構成>
■ 本検証について
・2026年3月から追尾・捕捉・光行差補正技術および広い温度範囲に対応した光アンテナの設計・製造技術を組み込んだ地上検証モデル(Bread Board Model、以下 BBM)を、月と地球間を模擬した条件下において検証を開始します。本検証は月と地球間通信回線のうち月側の光通信機を対象にしています。
・宇宙機の開発ではBBMの他に、実際に宇宙へ打ち上げる「フライトモデル(Flight Model、以下 FM)」や「エンジニアリングモデル(Engineering Model、以下 EM)」、「プロトタイプ・モデル(Prototype Model、以下 PM)」と呼ばれる複数の試作機を開発します(注2)。本検証では個別に開発したそれぞれの技術を統合してBBMに実装し、月と地球間を模擬した条件下で各機能を検証します。本検証の完了は宇宙機の開発の流れであるBBM、EM、PM、FMの第一歩にあたり、月と地球間光通信の実現に向けた重要なマイルストーンとなります。
1.追尾・捕捉・光行差補正技術の検証について
<技術概要>
・通信に用いられる電波や光は、空間を伝搬する距離が長くなるほど発散する特性があり、高い指向性を持つ光であっても、月と地球間の長距離伝搬ではビームの広がりは数km程度にも及びます。そのため、直径10cm程度の光アンテナで受信できる光のパワーは大変微弱となります。これが月と地球間の光通信を確立し継続的に維持することを難しくしています。
・難易度の高い技術開発要素である追尾技術は角度センサーと可動ミラーを組み合わせた追尾システムにより実現されます。こうした追尾は地球近傍の低軌道―静止軌道間では実証済みでしたが、月軌道上では未実証でした。そこで、JAXAらが開発した高感度な角度センサー「4象限アバランシェフォトダイオード(QAPD)(注3)」を採用し、それを用いた追尾システムを開発しました。これにより、光の揺れを高感度に検知し、それにもとづいて高精度な追尾をすることが可能となりました。BBMに先立って開発した検証用の追尾実験系において、月と地球間の光通信の維持に必要となる3マイクロラジアン(5,800分の1°)未満の追尾精度を実証済みです(注4)。
・さらに実証開始までに、通信相手を確実に見つけ光アンテナの視野に捉える捕捉技術と、通信機同士の相対運動に起因する送受信光の角度ずれを補正する光行差補正の技術開発を進めます。
<検証内容>
本検証では、追尾・捕捉・光行差補正の全ての機能を統合したBBMにおいても3マイクロラジアン未満の追尾、捕捉、光行差補正が問題なく動作すること、各機能が連携して動作し、通信を確立し継続的に維持できることを確認します。本検証で追尾システムの設計手法・製造手法の妥当性が確認できれば、38万kmの月と地球間の遠距離回線においても通信を確立し、安定的に維持できる光通信機の実現に向け前進します。これにより大容量な通信回線を月で提供する技術の実現に一歩近づきます。

<追尾技術の解説>
2.光アンテナの設計・製造技術の検証について
<技術概要>
・地球周回軌道では短周期で日照と日陰を繰り返すため、人工衛星の温度変化は緩やかです。一方、月面では昼と夜がそれぞれ約2週間続くため、例えば赤道付近の環境温度は−170℃〜+110℃という極めて広い温度範囲になります。こうした温度環境下では、一般的な構造材料では熱に起因する変形が大きく、光軸ずれや焦点ズレが生じ、光学性能の維持が難しいという課題がありました。
・そこで温度変化に伴う構造の変形が極めて小さい炭素繊維強化プラスチック素材(以下 CFRP)のゼロ熱膨張CFRPを用いた鏡筒と、極低膨張ガラスセラミックを用いたミラーを組み合わせた月通信向け光アンテナの開発に取り組み、設計技術の確立に成功(注5)しました。
・CFRPは炭素繊維と樹脂からなり、複数種類の炭素繊維を組み合わせるとともに、宇宙用途に新開発した特殊樹脂を採用しました。試験片を作製し温度試験を行った結果、広い温度範囲においても歪みを極小化できることを確認しています。また、極低膨張ガラスセラミックは、加工しやすいこと、国産であることを総合的に評価して複数の材料の中から選定し、研磨の試験を行い十分な面精度が得られることを確認しています。
<検証内容>
本検証では光アンテナのCFRP構造体の機械的特性や、複数のミラーの光学性能が広い温度範囲かつ真空下で維持できるかを確認します。本検証で実際に製作した光アンテナが設計通りに広い温度範囲で所定の性能を発揮できると確認できれば、過酷な温度環境下の月面に設置可能で、昼夜問わず稼働できる特徴を持つ光アンテナの実現に向け前進します。これにより月面のおおむね全域で、昼夜を問わず持続的に通信を確立し維持することが可能となり、月面との安定した通信の実現に一歩近づきます。
■ 本検証開始日
2026年3月2日
■ 各社の役割
| 担当 | 役割 |
|---|---|
KDDI総合研究所 | 捕捉・光行差補正・追尾制御技術の開発と内部光学系への実装 |
アークエッジ・スペース | 人工衛星の動的挙動のモデル化 |
テックラボ | ゼロ熱膨張CFRP製の鏡筒の設計および製造 |
トプコン | 光アンテナ、内部光学系の光学および機械設計 |
三菱ケミカル | ゼロ熱膨張CFRP用の素材(炭素繊維と樹脂)の供給 |
(参考)
■ KDDI総合研究所について
KDDI総合研究所は、KDDIグループの研究開発の中核として、光通信、無線通信、ネットワーク、AI、セキュリティ、XRの6つの領域を主軸に世界をリードする最先端技術の研究開発を行っています。KDDI VISION 2030「『つなぐチカラ』を進化させ、誰もが思いを実現できる社会をつくる。」のもと、皆さまの期待を超える感動を届け続けられる組織として、社会課題の解決とワクワクする未来の実現を目指します。
■ アークエッジ・スペースについて
アークエッジ・スペースは、超小型衛星コンステレーションの企画・設計から量産化、運用まで総合的なソリューション提供を行う宇宙スタートアップ企業です。
“衛星を通じて、人々により安全で豊かな未来を”実現することを目指し、今後は地球観測、船舶向け衛星通信(衛星VDES)、光通信、低軌道衛星測位等に対応した超小型衛星コンステレーションの構築を実現するとともに、月面活動にむけた衛星インフラ構築や深宇宙探査など、多様なミッションニーズに対応する宇宙の開発利用を推進します。
■ テックラボについて
テックラボは、2012年の創業以来、仕様に応じた製品を提供する「技術」だけでなく、これまで解決の見えなかった課題を解明する「研究」の力を持ち、設計から製作、アセンブリまで一貫して行うCFRP(炭素繊維強化プラスチック)部品・製品の開発企業です。人工衛星や、ナノメートルオーダーの超精密加工技術を研究してきたエンジニアたちによる開発チームは、強度のみならず、剛性や熱伝導など多様な要求に対する軽量化と高精度化とを実現するとともに、航空宇宙レベルの高品質化を達成しました。私たちは、単にCFRPを製作するだけでなく、「Tailored Materials(テイラードマテリアル)」というコンセプトを掲げ、CFRPの特性を最大限に活かし、多くの業界、市場にCFRPが生み出す価値を届け、より良い社会の発展に貢献して参ります。詳しくは こちらをご覧下さい。
■ トプコンについて
トプコンは最先端のDXソリューションで、「医(ヘルスケア)・食(農業)・住(建設)」の社会的課題を解決し、世界の人々の豊かな生活を実現するために挑戦し続けます。創業以来培った光学技術を活かし、1980年代より衛星に搭載する光学部品やデバイスなどの光学ユニットを提供しています。
■ 三菱ケミカルについて
三菱ケミカルは1933年の創業以来、基礎化学品から機能商品に至るまで、さまざまな素材を提供する総合化学メーカーです。モビリティ、半導体・通信、食、メディカル、インフラなど幅広い分野でグローバルに事業を展開。「革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードする」というPurposeのもと、社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力でお客様を感動させる「グリーン・スペシャリティ企業」をめざしています。
■ 本件に関する過去の報道発表
2022年1月11日 KDDIニュースリリース
JAXA「『⽉⾯活動に向けた測位・通信技術開発』に関する検討」の委託先に選定
(注1)2025年9月に研究開発契約を締結
(注2)以下はJAXAによる 解説にもとづく。
BBM:Bread Board Model 新規技術要素を有する開発において、設計の実現性を確認するために製作・試験されるモデル。初期段階に製作し試作機的役割を持つ。 宇宙用の部品ではなく、地上の一般用部品や材料を使用して製作する。 この段階で出た問題点を解決し、次のEM製作に進む。
EM:Engineering Model 基本設計に基づき製作し、機能・性能・環境試験に供することで設計の妥当性を確認し、次の詳細設計段階に移行するための設計を固めるためのデータを取得するためのモデル。部品などの品質と信頼性を除いて打上げ実機とほぼ同一仕様を持つ。
PM:Prototype Model 詳細設計に基づき基本的に実機と同一仕様(部品、材料、加工)で製作されるモデル。 このモデルに実際の宇宙環境より厳しい環境を負荷し、試験することで宇宙機の設計が要求を満たしていることを確認する。
FM:Flight Model 認定試験に合格したPMと同一の設計及び製造方法で製作されたモデルで、実際に宇宙に打ち上げるモデル。 このモデルに対しては、打上げ用としての品質を備えていることを確認するための試験を行う。 設計は認定試験により確認されているから、受入試験においては軌道環境を模擬した試験を行い、製造工程に起因する欠陥が潜んでいないことを確認する。
(注3)QAPDは、JAXAと株式会社ワープスペースが共同開発したものです。
2024年4月23日 ワープスペースニュースリリース
ワープスペース、JAXAと月・地球間の長距離光通信に向けた長距離光通信高感度センサーの共同開発を完了
(注4)2025年11月の第69回宇宙科学技術連合講演会においてKDDI総合研究所が発表
(注5)2025年11月の第69回宇宙科学技術連合講演会においてトプコンが発表
※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。