株式会社KDDI総合研究所 このページを印刷する

Beyond 5G/6G時代に向けたテラヘルツ帯マルチビームアンテナの開発に成功

~超高速・大容量通信の実現を目指して~

2022年5月24日
株式会社KDDI総合研究所
国立大学法人名古屋工業大学

株式会社KDDI総合研究所(本社:埼玉県ふじみ野市、代表取締役所長:中村 元、以下「KDDI総合研究所」)と国立大学法人名古屋工業大学(愛知県名古屋市昭和区、学長:木下隆利、以下「名古屋工業大学」)は、テラヘルツ帯で電波の放射方向を変更できる、高利得(注1)なマルチビームレンズアンテナと、小型な平面型マルチビームアンテナの開発に世界で初めて(注2)成功しました。
テラヘルツ帯を用いた移動通信の実用可能性を高めるもので、Beyond 5G/6G時代に求められる超高速・大容量通信の実現への貢献が期待されます。

 

なお本件は、2022年5月25日~27日に東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催される、「ワイヤレス・テクノロジー・パーク2022」のKDDI総合研究所ブースで紹介します。

 

 

 

図1:開発した2種類のマルチビームアンテナ

 

 

【背景】
5G商用化以降、5Gの高速性・低遅延性を活かした多種多様なサービスが提供されましたが、研究開発分野では5Gの特徴をさらに高度化させた次の通信システムBeyond 5G/6Gへの取り組みが始まっています。Beyond 5G/6Gでは、5Gの100倍の超高速・大容量通信を実現するために、広い周波数帯域を使えるテラヘルツ帯の利用が期待されています。一方で、テラヘルツ帯の通信分野での利用は未知の領域であり、チャレンジングです。
テラヘルツ帯は、電波の直進性が高く、遠くまで届きにくい(伝搬損失が大きい)性質からも、利得の高いアンテナが必要となります。しかし、利得の高いアンテナはビームが鋭いため、ユーザー端末の場所が動く移動通信におけるテラヘルツ帯の実用化に向けて、ビーム方向を変更可能なアンテナが求められていました。
また、Beyond 5G/6G時代において、お客さま一人ひとりの高い通信性能要求に応えるには、ユーザー端末の進化も必要です。しかし、スマートフォンなどのユーザー端末には筐体サイズからくる搭載可能なアンテナ数や最大の送信電力といった制約があります。これらの制約をなくすために、KDDI総合研究所と名古屋工業大学は、ユーザー端末が周辺のさまざまなデバイスとテラヘルツ帯で協調し、各デバイスに搭載されたアンテナを仮想的に束ねて一つの端末として動作する「仮想化端末」(注3)を提案しています。

 

【今回の成果】
このたび、KDDI総合研究所と名古屋工業大学大学院工学研究科 榊原久二男教授、杉本義喜助教らの研究グループは、テラヘルツ帯(300GHz帯)でビーム方向を変更可能なマルチビームアンテナを世界で初めて開発しました。高利得なマルチビームレンズアンテナと、小型な平面型マルチビームアンテナの2種類で、両アンテナとも60度の角度(アンテナ正面を0度とし、プラスマイナス30度)でビーム方向を変更できます。

 

高利得なマルチビームレンズアンテナは、レンズと1次放射器(ホーンアンテナ)で構成され、接続するホーンアンテナを切り替えることによりビーム方向を変更します。レンズにテラヘルツ帯で誘電損失の小さい素材の選定およびレンズ形状とホーンアンテナの配置の最適化により、ピーク利得が27dBi(全方向に同じ電波強度で放射する等方性アンテナと比較して約500倍)、60度の範囲で利得が22dBi(等方性アンテナと比較して約160倍)以上となる高利得を達成しました。

 

 

 

図2:マルチビームレンズアンテナの構造と特性

 

 

小型平面マルチビームアンテナは、マイクロストリップコムラインアンテナとビーム形成回路で構成され、ビーム形成回路の接続ポートを切り替えることで、ビーム方向を変更します。アンテナとビーム形成回路を層状に重ねた独自構造により、サイズ25mm×17mm×2mmと小型化を図りました。

 

 

 

図3:平面型マルチビームアンテナの構造と特性

 

 

【今後の展望】
今回の成果により、テラヘルツ帯を使った移動通信の実用可能性が高まります。また、これらのアンテナをスマートフォンや周辺デバイスに搭載することで、「仮想化端末」が可能となり、Beyond 5G/6Gで求められる超高速・大容量通信の実現が期待されます。
KDDI総合研究所と名古屋工業大学は、今後、さらに広い角度にビーム方向を変更可能なアンテナの開発を進めていきます。また、開発したアンテナを用いて、仮想化端末の実現に向けた、テラヘルツ帯の実証実験を進めていきます。

 

 

 

図4:「仮想化端末」コンセプトイメージ

 

 

なお、今回の研究成果は、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT:エヌアイシーティー)の委託研究(採択番号00401)により得られたものです。

 

 

<KDDI総合研究所の取り組み>
KDDIとKDDI総合研究所は、2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を策定し、その具体化に向け、イノベーションを生むためのエコシステムの醸成に必要と考えられる「将来像」と「テクノロジー」の両面についてBeyond 5G/6Gホワイトペーパーにまとめました。両社は新たなライフスタイルの実現を目指し、7つのテクノロジーと、それらが密接に連携するオーケストレーション技術の研究開発を推進します。
今回の成果は7つのテクノロジーの中の「ネットワーク」に該当します。

 

<名古屋工業大学の取り組み>
名古屋工業大学は、単なる技術開発ではなく将来像や理想の社会などを対話によって構築するコミュニケーションとしての工学の在り方を「心で工学」として追究します。ステークホルダーに寄り添い、客観的・俯瞰的な視点とさまざまな人々との対話によって新たな社会基盤を創出する技術者をさまざまな側面から育成し、また、地域産業界を牽引して「中京地域産業界との共創」による技術開発、課題解決を進めるため、世界レベルの先端研究をグローバルかつ多様な連携に基づいて推進しています。

 

 

(注1)利得とは、等方性アンテナと比較した放射電力の比で、アンテナ性能を示す指標の一つ。値が高いと指向性を持ち、特定方向により強い電波を放射できることを意味する。単位はdBi(デシベル)。
(注2)テラヘルツ帯(300GHz帯)で、複数のビーム(マルチビーム)を切り替えてビーム方向を可変するアンテナにおいて、アンテナ性能を確認したのが世界初。2022年5月24日時点、KDDI総合研究所調べ。
(注3)Beyond 5G/6Gホワイトペーパー2.0.1版(2021年10月22日公開)内、5.4.1.4節

 

 

※ニュースリリースに記載された情報は、発表日現在のものです。 商品・サービスの料金、サービス内容・仕様、お問い合わせ先などの情報は予告なしに変更されることがありますので、あらかじめご了承ください。