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Wi-Fiとクラウドを複数のネットワークを介してつなぐ広域仮想網を日米間で実証

2016年3月7日
国立研究開発法人情報通信研究機構
国立大学法人東京大学大学院情報学環
株式会社KDDI研究所

【ポイント】

■特性が異なるWi-Fi接続、インターネット回線、クラウドサーバをSDNで一括制御

■高遅延・低速から低遅延・高速まで多様なIoTサービス向けネットワークをカスタムメイド

■屋内移動型ロボットのインターネット経由での遠隔操縦など、製造・物流での用途に期待

 

 国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT、理事長: 坂内 正夫)、国立大学法人東京大学大学院情報学環(東京大学、総長: 五神 真)、株式会社KDDI研究所(KDDI研究所、代表取締役所長: 中島 康之)は、株式会社日立製作所及び米国ユタ大学(The University of Utah、ソルトレイクシティ市)の協力を得て、NICTが開発した仮想化Wi-Fiを含めた複数の仮想網で構成される有無線マルチドメイン仮想網*1の国際実証実験に世界で初めて成功しました。

 本成果により、要件が多岐にわたる個々のIoTサービス向けに、異なる事業者からWi-Fi接続、インターネット回線、クラウドサーバ等を必要な容量で調達し、規模や通信量に見合ったカスタムメイドな専用ネットワークをインターネット上に構築することが可能になります。Wi-Fiエリア内を移動するロボットを、クラウドからインターネット経由でストレスなく操縦するといった用途に利用でき、特に製造業や物流分野での応用が期待されます。

 本成果は、3月8日~9日に米国で開催される「24th GENI Engineering Conference(GEC-24)」で展示します。

 

【背景】

 Wi-Fi通信機能を内蔵するスマートグラスや移動型ロボット等の無線IoTデバイスと、遠隔のクラウドサーバとの常時通信を基本とするサービスの需要が、製造業や物流分野で急速に高まっています。最近では海外拠点のクラウドが利用される事例も増え、国際・国内回線やWi-Fi等の複数のネットワークを経由した利用が一般的です。しかし、ネットワークごとに特性や運用ポリシーが異なるため、全体として一貫した通信品質を確保することが困難でした。

 東京大学大学院情報学環、KDDI研究所らの研究グループは、NICT の委託研究「新世代ネットワークを支えるネットワーク仮想化*2基盤技術の研究開発」の一環として、複数の有線仮想網を共通の品質やポリシーで相互接続する技術等を共同開発しました。しかし、無線仮想網の相互接続までは実現できていませんでした。

 一方、NICTは、ユーザ密集等によりWi-Fiが混雑する環境において、SDN(Software-Defined Network)技術に基づき、特定アプリケーションの通信品質を優先的に確保できる仮想化Wi-Fi*3基地局の開発を進めてきました。

 

【今回の成果】

 本研究グループは、このたび、クラウドを含む有線仮想網とWi-Fi仮想網を相互接続する技術を新たに開発し、Wi-Fi-インターネット-クラウド間をつなぐ有無線マルチドメイン仮想網を日米間で構築する実証実験に成功しました。

 今回の成果は、通信方式が異なる複数の無線仮想網との相互接続にも応用可能で、新しい無線技術が次々と実用化されるIoT時代のSDN相互運用の高度化に向けて、大きな一歩を踏み出したと言うことができます。

 今回の実験では、東京大学、KDDI研究所が中心となって開発した「スライスエクスチェンジポイント(以下、SEP)*4」に、NICTが日立の協力を得て開発したWi-Fi仮想網接続機能を追加することで、SDNによる3つの仮想網の一括制御を実現しました。国内からの海外クラウド利用を想定し、国内Wi-Fi仮想網と、ユタ大学の仮想化基盤ProtoGENI*5上に構築されたクラウドを、JGN-X*6上で運用される仮想化ノード*7による有線仮想網が中継する構成としました。

 

 

 

有無線マルチドメイン仮想網の国際実証実験

 

 

【今後の展望】

 本成果により、海外拠点のクラウドを利用したスマートグラス向けサービスや、屋内移動型ロボットの安全な遠隔自動操縦等、製造・物流を中心に、Wi-Fiとクラウドを利用したIoTサービスへの幅広い応用が期待されます。

 なお、本成果は、3月8日(火)~9日(水)に米国で開催される「24th GENI*8 Engineering Conference(GEC-24)」で展示します。(http://groups.geni.net/geni/wiki/GEC24Agenda

 

<関連するプレスリリース>

■2013年6月11日: NICT

「仮想化対応WiFiネットワークを開発~無線LAN基地局仮想化によって混雑時でもつながるWiFi通信を実現~」

 http://www.nict.go.jp/press/2013/06/11-1.html

■2015年3月31日:

国立大学法人東京大学大学院情報学環、日本電信電話株式会社、株式会社KDDI研究所、株式会社日立製作所、日本電気株式会社、富士通株式会社

「グローバルなマルチドメインプログラマブル高機能仮想網の実現と新世代ネットワークアプリケーション実験に成功 ~日米欧連携強化で新世代ネットワーク技術の実用化に向けた研究開発を加速~」

 http://www.ntt.co.jp/news2015/1503/150331a.html

 

<用語解説>

*1 マルチドメイン仮想網

 複数の異なるネットワーク仮想化基盤(ドメイン)を相互接続することによって構成され、全体として一貫性のあるアドレス体系やセキュリティポリシー、通信品質が確保された一つの仮想ネットワークとして動作可能な、仮想ネットワークの集合体。特に、仮想化ノードのように、通信プロトコルの書き換えといったプログラム性が高いものをマルチドメイン高機能仮想網と呼ぶ。

*2 ネットワーク仮想化(技術)

 仮想化技術等を用いてネットワークを構成するルータやサーバ等のハードウェアのCPU処理能力や記憶容量等の物理資源を論理的に分割し、これらの資源を任意に組み合わせることで、独立で自由に通信プロトコルを書き換え可能な論理ネットワークを複数共存させる技術。この発表資料においては、生成された論理ネットワークをスライスと呼ぶ。

*3 仮想化Wi-Fi

 優先度が高いサービス専用の基地局資源を動的に確保することで、Wi-Fi混雑環境下においても、特定サービスの通信品質を優先的に向上させることができる技術。複数の物理基地局から構成されるWi-Fiネットワーク上に、特定サービスの利用者だけが接続を許可されるサービス専用仮想基地局を論理的に構成する。基地局稠密配置環境下においては、Wi-Fiモジュール単体やWi-Fiチャネルの物理的通信容量の限界を超えて伸縮可能な容量を有し、かつ単一の物理基地局と等価な振る舞いをする基地局を構成できる。

*4 SEP(スライスエクスチェンジポイント)

 インターネットにおけるIX (Internet eXchange) のように、複数の異なるネットワーク仮想化基盤間において、仮想網を相互に接続するための仮想ネットワーク接続機構。東京大学、KDDI研究所らが2012年に提案し、2014年よりGENIで同様の機構の普及が開始。

 参考: VNode Project,

     “Federation Architecture and Common API / Common Slice Definition (Draft V2.0)”,

      March 2014.

    http://nvlab.nakao-lab.org/Common_API_V2.0.pdf

*5 ProtoGENI

 GENIの主要プロジェクトの一つ。ユタ大学を中心に開発され、全米に広がるInternet2にバックボーンを持つテストベッドプロジェクト。仮想ネットワークを動的に構築し、プログラムを自由に導入することで、新世代ネットワークの実証実験が可能。日本の仮想化ノードとは構成技術が異なる。

*6 JGN-X

 NICTが整備する新世代ネットワークのためのテストベッド(実際の運用環境に近い試験用のプラットフォーム)。NICTでは「Japan Gigabit Network」(JGN)の運用開始以来、一貫してネットワーク技術の実証を志向したネットワークテストベッドを整備してきており、2011年4月、NICTのネットワーク研究の柱となる新世代ネットワーク技術の実現とその展開のための新たなテストベッド環境として、新世代通信網テストベッド「JGN-X」を構築、運用を開始している。

 参考: http://www.jgn.nict.go.jp/ja/info/what-is-jgn-x.html

*7 仮想化ノード

 ネットワーク仮想化技術に基づき、仮想ネットワークを複数独立に構築可能なシステム。具体的にはルータ、スイッチ、サーバやネットワークプロセッサ等から構成される。2008年度から2010年度に、NICT、東京大学、NTT、NEC、日立、及び富士通研究所の共同研究により研究開発が行われ、2011年度からは、NICTの委託研究としてKDDI研究所が加わり、次世代の仮想化ノードの研究開発が行われた。

参考: 2010年3月30日 NICTプレスリリース

    新たなネットワークの実現を支えるネットワーク仮想化ノードの実証実験を産学官で開始

    http://www.nict.go.jp/press/2010/03/30-1.html

*8 GENI (Global Environment for Network Innovations)

 2005年に基本設計の検討を開始したNSF(アメリカ国立科学財団:National Science Foundation)が支援する長期的ネットワークテストベッドプロジェクト。新しいインターネット構成やネットワークサービスの研究開発を促進するため、複数のネットワーク実証実験が同時かつ独立に遂行できるネットワーク共通基盤テストベッドの開発を目指している。

 

 

 

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